日本製調理器具を世界へ── 海外営業20年のプロが明かす、問い合わせを8倍にした海外展開の戦略
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目次
- インタビューした方のご紹介
- 日本製だからこそ、世界で戦える
- 輸送コストという「見えない壁」とどう向き合うか
- 少人数で世界3極をカバーする営業体制
- 欧州20年の経験が教えてくれた「商習慣の誤解」
- 海外営業で成功するためのターゲット戦略
- 問い合わせが8倍になった多言語Webサイトの威力
- まとめ
インタビューした方のご紹介
高橋 慶多様 和平フレイズ株式会社(wahei freiz)の海外営業チーフマネージャー。同社はアジア・北米・ヨーロッパなど世界中に日本製の調理器具を販売しており、高橋様はその全体統括を担いながら、欧州市場を直接担当している。海外取引に携わって20年、そのほぼすべてを欧州ビジネスとともに歩んできたベテランである。
日本製だからこそ、世界で戦える
和平フレイズは、フライパンや鍋など幅広い調理器具を製造・販売しているメーカーだ。国内向けには中国製品も取り扱うが、海外に輸出しているのは日本製品のみに絞っている。
この判断は戦略的なものだ。海外市場、とりわけ欧米の消費者や流通業者は、メイド・イン・ジャパンに対して明確な付加価値を感じている。品質・精度・デザインへのこだわりは、価格競争に巻き込まれにくい強みとなる。
中小企業が海外展開を検討するとき、最初の問いは「自社の何を売るのか」だ。価格で勝負するのか、それとも品質や独自性で差別化するのか。和平フレイズのケースは、後者の明確な答えを示している。品質の高い国産品を持つ企業にとって、海外市場はむしろブランド価値を最大化できる舞台になり得る。
輸送コストという「見えない壁」とどう向き合うか
海外展開において、製品の品質と同じくらい頭を悩ませるのが物流コストだ。高橋様によれば、輸送費用のコントロールは日々の実務における最大の課題のひとつだという。
昨今の中東情勢の影響もあり、海上輸送のルートや運賃は不安定さを増している。紅海を迂回するルートへの切り替えが相次いでいる現状では、同じ荷量でも以前より大幅にコストが上がるケースも出ている。
そうした環境下で高橋様が実践しているのが、まとめ発注の促進だ。バイヤーや代理店に対して、都度の小口発注ではなく、ある程度まとまった数量での注文を依頼することで、1個あたりの輸送コストを圧縮する。
この考え方は、中小企業の海外担当者にとっても重要な視点だ。売り上げ金額だけでなく、輸送費を含めた実質的な利益率を常に意識した取引設計が欠かせない。取引条件を交渉する際には、最低発注数量(MOQ)を設けることや、一定金額以上の受注に対してフリートを用意するなどの工夫が、利益確保の鍵となる。
少人数で世界3極をカバーする営業体制
和平フレイズの海外営業チームは、決して大規模ではない。チーフマネージャーである高橋様が全体を統括しながら、アジア担当・北米担当がそれぞれ1名ずつ、そして欧州は高橋様自身が直接カバーするという体制だ。
少数精鋭でグローバル展開を実現しているこの体制は、多くの中小企業にとって現実的な参考モデルになる。重要なのは人数ではなく、誰がどのエリアを責任を持って見るかという役割の明確化だ。
エリアごとに担当を固定することで、各市場の特性・顧客との関係・商習慣の蓄積が属人化せず、担当者の中に深く根付いていく。欧州に限らず、北米もアジアも、文化や商慣習が大きく異なる。市場を深く知ることが、長期的な信頼関係と安定した取引につながる。
代理店との契約形態についても、取引が一定の頻度・規模で安定してきたタイミングで正式な代理店契約を締結し、それ以前は個別契約で柔軟に対応するというスタンスを取っている。小さく始めて、実績を積みながら関係を深めていくアプローチは、海外展開の初期段階において特にリスクが低い。
欧州20年の経験が教えてくれた「商習慣の誤解」
海外ビジネスを始めようとするとき、多くの担当者が最初に恐れるのは「商習慣の違い」だ。文化が違う、価値観が違う、ビジネスの進め方が違う――そのイメージが先行し、一歩を踏み出せないケースも少なくない。
しかし高橋様は、20年のキャリアを通じて実感した本質をこう語る。商習慣の違いはもちろん存在するが、それよりも個人の性格による違いのほうがよほど大きい、と。
例えばワークライフバランスが充実していると言われる国であっても、実際にはものすごいエネルギーで働くパートナーがいる。逆に、一般的には労働時間が長いとされる国であっても、休暇をきっちり取ることを当然とする人もいる。ステレオタイプは参考程度にはなるが、目の前の相手個人をちゃんと見ることが、信頼関係構築の出発点だ。
これは海外営業における非常に本質的な教えだ。商習慣の勉強は大切だが、それ以上に相手一人ひとりを人として尊重し、個性を理解しようとする姿勢が、長く続く取引関係を生む。特に中小企業が海外に出る際は、大手のように組織対組織ではなく、人対人のコミュニケーションが武器になる。
社会人1年目・2年目のころは確かに苦労したという高橋様だが、それはどの業界・どの市場でも同じだ。失敗を重ねながらも経験を積み上げてきたプロセスこそが、今の強さを支えている。
海外営業で成功するためのターゲット戦略
高橋様が海外営業の核心として語るのが、ターゲットの絞り込みだ。自社の製品に興味を持ってくれそうな会社に、的を絞って売り込む。当たり前のように聞こえるが、これを徹底できている企業は意外と少ない。
飛び込みのような総当たり的なアプローチは、リソースの限られた中小企業には非効率だ。まずは自社製品がどのカテゴリーで、どういった流通経路で販売されているのかを把握し、そのチャネルを持つ企業・バイヤーに的を絞る。
さらに重要なのが、こちらから探しに行くだけでなく、相手から問い合わせてもらえる仕組みをつくるという発想だ。プッシュ型の営業だけでなく、プル型のマーケティングを組み合わせることで、温度感の高い問い合わせを継続的に獲得できる。
高橋様が実践しているのは、Webサイトの充実と、そこから接続するビデオ商談の活用だ。問い合わせてきた相手に対して、実際に商品を映しながらオンラインで提案する。現地に飛ばなくても、製品の質感や使い勝手をリアルに伝えられるビデオ商談は、特にコスト感度の高い中小企業にとって非常に有効な手段だ。
問い合わせが8倍になった多言語Webサイトの威力
高橋様の入社後、約半年のタイミングで着手したのが、海外パートナー募集を目的とした多言語ページの新設だ。それまでの問い合わせフォームや海外向けコンテンツは限定的なものだったが、複数言語で「海外代理店・バイヤー募集」の専用ページを制作・公開したところ、海外からの問い合わせ数が約8倍に急増した。
数字のインパクトも大きいが、質的な変化もあった。リニューアル前は台湾を中心とした東アジア圏からの問い合わせがほとんどだったが、多言語化後はイギリスやフランスといった欧州、そして北米からの流入も大幅に増加した。
これは何を意味するのか。英語をはじめとした現地語で情報を発信することで、日本語しか読めないバイヤーや代理店は当然ながらアプローチできなかった市場が開かれる。言語の壁は、製品の魅力や品質とは無関係に、海外からの認知・問い合わせを妨げる最大の障壁のひとつだ。
多言語対応のWebサイトやランディングページは、24時間365日、世界中から働いてくれる営業マンだといえる。1ページの多言語化が数十件・数百件の問い合わせにつながる可能性を、和平フレイズの事例は実証している。
中小企業が海外展開を本気で検討するなら、まず自社のWebサイトを海外の潜在パートナーが見たときに、問い合わせしやすい状態になっているかを確認することが、最初の一手として最も費用対効果が高いアクションのひとつだ。
まとめ
高橋様のインタビューから浮かび上がるのは、海外展開に必要なのは大きな予算や大規模な組織ではなく、戦略と仕組みだという事実だ。
日本製品の品質を武器に、輸送コストを意識した取引設計を行い、少人数でも役割を明確にして世界3極をカバーする。商習慣の違いをおそれすぎず、目の前の相手個人と向き合い、自社に興味を持つ相手にターゲットを絞って営業をかける。そして、多言語のWebサイトで世界から問い合わせが来る仕組みをつくる。
これらはいずれも、小さな会社でも今日から始められることだ。海外展開を検討している中小企業の経営者・海外担当者にとって、まず取り組む価値があるのは、自社のWebサイトを海外パートナーが問い合わせしやすい多言語の状態にすることかもしれない。
和平フレイズが実証したように、たった1ページの多言語化が、問い合わせを8倍にする力を持っている。