海外進出マニュアル

最初からグローバルを目指す——19歳の韓国人創業者が、AIプロダクトを世界市場へ届けるまで

読了時間: 約 12.142分

Leap編集部
Leap編集部
海外事業の専門家チーム
最初からグローバルを目指す——19歳の韓国人創業者が、AIプロダクトを世界市場へ届けるまで

小さなチーム、あるいはひとりの創業者が、最初から世界中のユーザーを惹きつけるソフトウェアプロダクトを作るとは、どういうことか。

Chowon Lee氏は、韓国出身の19歳の創業者だ。13歳で大学に入学し、18歳で心理学の学位を取得して首席で卒業した。現在、3つのAIプロダクトを同時に開発している。タスク管理アプリ「GetThis」はProduct Huntで「Product of the Day」3位を獲得した。

起業家としてのキャリアはまだ始まったばかりだが、Chowon氏は当初からグローバルな視点でプロダクト開発に取り組んできた。英語がネイティブでない中でどのように国際ユーザー向けに製品を作るか、心理学がAIプロダクト設計にどう活きているか、そして中小企業が海外展開を考える際に押さえるべきポイントについて話を聞いた。

Chowon Lee

Chowon Lee GetThis 共同創業者 / Psycled CEO ソウル、韓国 全南大学で心理学を専攻し、GPA 4.35/4.5で首席卒業。現在、GetThis(音声・スクリーンショットベースのタスク管理)、PostPolish(SNS向けAIライティングアシスタント)、Psycled(AI感情トラッキング・メンタルヘルス分析)の3つのAIプロダクトを開発中。

かつては7名のプロダクトチームを率いていたが、現在は主にソロ創業者として、共同創業者兼CTOを務める父親とともに活動している。

最初からグローバルユーザーを見据えて

──最初の有料顧客が現れる前から、グローバルなユーザーを想定してプロダクトを作っていたそうですね。なぜですか?

海外展開を「別の戦略」として考えたことは、正直ありませんでした。

SaaSを調べ始めたとき、目にするプロダクトのほとんどはすでに世界中のユーザーに使われていました。それが私の学習環境でした。だから韓国だけを市場として考えるという発想が、最初からなかった。

最初のターゲットはアメリカにしました。SaaSエコシステムが最も成熟していて、アーリーアダプターのコミュニティが大きかったからです。GetThisがアメリカで最初の有料ユーザーを獲得したとき、「韓国の小さなチームでも、グローバルなプロダクトは作れる」という確信が生まれました。

振り返ると、多くの創業者は国際ユーザーへの対応を後回しにしていると思います。でも、言語・オンボーディング・流通に関する意思決定は、思っている以上に初期に行われるものです。だから、たとえ会社が小さくても、最初からグローバルなユーザーを意識することに意味があると考えています。

翻訳を超えたコミュニケーションの課題

──PostPolishは、LinkedInやXで英語を書くことへの自分自身の不満から生まれたと聞きました。実際に難しかったのはどんなことですか?

文法的に正しい英語を書くこと自体は、そこまで難しくありませんでした。難しいのは、そのプラットフォームと読者に合った「自然な言い回し」にすることです。

LinkedInの投稿とXの投稿は、まったく雰囲気が違います。誰かへの返信ひとつとっても、プロフェッショナルで自信があるように見せながら、堅すぎず攻撃的にもならないバランスが必要です。英語がネイティブではない私は、SNSとAIツールを行き来しながら、同じ文を何度も書き直すことが多かった。

同じことをしている創業者がたくさんいることに気づきました。伝えたいことはある。でも翻訳・編集・修正のプロセスが、発信の邪魔をしている。

それがPostPolishのきっかけです。別のチャットツールを開いてテキストをコピー&ペーストするのではなく、ブラウザ上で直接書きながら、そのまま文章を改善できる。目指したのは「より良い英語」ではなく、「コミュニケーションをもっとシームレスに」することでした。

プロダクトを作りながら気づいたのは、英語が母語でない人の多くは「何を言いたいか」はすでにわかっているということ。問題は、それがグローバルな読者に自然に伝わるかどうか自信が持てないことです。その迷いが、本来発信できるはずのアイデアを止めてしまう。

これは海外展開を目指す企業にとっても、とても身近な話だと思います。多くの場合、課題は専門知識やプロダクトの質ではなく、その価値を異なる市場の人々に明確かつ自信を持って伝える方法を見つけることにある。

心理学の視点でAIを設計する

──Psycledは、あなたのプロダクトの中でも最も心理学的に複雑な製品です。学術的なバックグラウンドは、実際の設計にどう影響していますか?

Psycledは、私が関わってきたどのプロダクトよりも、心理学のバックグラウンドに影響されていると思います。

心理学を学ぶ中で、人を正確に理解することがいかに難しいかを、ずっと考えてきました。研究は、データから導き出す結論に慎重であること、そして人間の行動は見た目より複雑であることを教えてくれます。

その視点が、Psycledの設計において重要な決断につながりました。AIとユーザーの継続的な会話を中心にプロダクトを設計するのではなく、構造化された一回限りのフィードバックに絞ることにしたんです。

会話型AIにメンタルヘルス上の価値がないと思っているわけではありません。どこで役に立つのか、限界はどこか、どう責任を持って活用すべきか、まだ議論が続いている領域です。技術が進化すれば、その役割についても明確な理解が深まるでしょう。

ただ今は、より明確な境界線があるユースケースで構築することが大切だと感じました。Psycledでは、日記や振り返り、自由形式の思考をユーザーが入力し、その文章に含まれる感情やテーマを構造的に分析して返します。人間のサポートを置き換えたり、セラピストの代わりになることが目的ではなく、自分自身の感情パターンをより深く理解する手助けをすることが目標です。

より広くいえば、AIプロダクトの設計において最も重要な問いは、「AIに何ができるか」だけではなく、「AIが何に責任を持つべきか」だと思っています。心理学は私をAIに懐疑的にさせたのではなく、その境界線を慎重に定義することの重要性に、より敏感にさせてくれました。

信頼できるAIプロダクトを作る

──AIを活用したプロダクトを作る上で、最も難しかった技術的な課題は何でしたか?

最大の課題のひとつは、大規模言語モデルから構造化された一貫性のある出力を得ることでした。

AIを使い始めると、モデルをアプリに接続すれば出力が予測可能になると思いがちです。でも実際はそうではありません。大規模言語モデルは自然言語を生成するように設計されていて、ソフトウェアシステムが必要とするクリーンで標準化されたデータを出力するようには、必ずしも作られていない。

初期の頃は、プロンプトのわずかな違いで出力が変わることが何度もありました。単語ひとつ、句読点ひとつ、指示の順序の変化が、結果に影響することもある。

時間をかけて改善策を見つけていきました。より高性能なモデルを使うことも役に立ちましたが、同じくらい重要だったのはモデル自体の周りに、より優れた検証・処理レイヤーを構築することでした。ツールが成熟するにつれ──構造化出力、ツール呼び出しフレームワーク、MCPなどの標準が普及するにつれ──AIモデルと外部システムの間でより信頼性の高いワークフローを作りやすくなりました。

この経験から得た教訓は、AIのデプロイは外から見えるよりずっと複雑だということです。モデルはシステムの一部に過ぎない。プロンプト設計、出力検証、モニタリング、継続的な改善が、最終的なユーザー体験を信頼できるものにするために、すべて重要な役割を担っています。

モデル自体が時間とともに進化するため、これは特に重要です。今日うまく動くワークフローが、将来のモデル更新後に異なる動作をする可能性があります。品質管理は一度きりのタスクでは済まない。

予防的メンタルヘルステクノロジーへ

──長期的に何を目指して作っていますか?

長い目で見ると、ソフトウェアを超えたプロダクトを作ることに興味があります。

ずっと気になっていることがあります。燃え尽き症候群、慢性的なストレス、不安──多くの人がそれを認識するのは、すでに辛い状況に陥ってからということが多い。振り返れば、当時のサインに気づけることも多い。でも問題は、そのサインがその瞬間には気づかれにくいということです。

それが長年考え続けてきた問いです。「もし、そのサインをもっと早く検知できたら?」

メンタルヘルステクノロジーの未来は、心理学・AI・生体データの交差点にあると思っています。心拍パターン、睡眠の乱れ、ストレス関連の指標など、身体的なシグナルの中に、私たちが意識的に気づいていない精神状態に関する情報が含まれているかもしれない。

長期的なビジョンは、メンタルウェルネスに特化したリストデバイスを作ること──燃え尽き、慢性的なストレス、パニック関連の症状の初期サインを、手に負えなくなる前に検知できるもの。起きたことを事後に理解する手助けではなく、まだ対応できるうちに「今何が起きているか」に気づいてもらうことを目指しています。

短期的には、AIプロダクトの開発継続、資金調達、そしてサンフランシスコやニューヨークのスタートアップエコシステムから学ぶことに集中しています。

人を理解することに、昔からずっと興味があります。心理学が人を研究する道に導いてくれた。プロダクトを作ることは、人を助ける方法になりました。

日本企業が学べること

Chowon氏のプロダクトはまだ初期段階にあるが、彼女の経験は、多くの中小企業が国際市場に参入する際に直面する課題を鮮明に映し出している。

グローバルなユーザーに向けて作るということは、翻訳だけでは足りない。プロダクト設計、コミュニケーション、顧客獲得、そして開発の最初期に置く前提にまで影響する。インタビューを通じて、Chowon氏は繰り返し同じことを語っていた──初期に下される決断が、その後のすべてを形作る、と。

また彼女の経験は、国際的な機会は多くの企業が想定するより早く訪れうることを示唆している。GetThisにとって、プロダクトマーケットフィットの最初のサインは韓国外のユーザーから来ており、本物の需要がどこから来ているかに注目することの重要性を改めて教えてくれる。

日本企業が海外成長の機会を模索し続ける中、グローバルな顧客にリーチするためのハードルはかつてないほど低くなっている。一方で、成功はますます「明確に伝える力」「素早く適応する力」「最初からグローバルユーザーを念頭に置いてプロダクトを作る力」にかかっている。

まとめ

  1. 国際的なユーザーは想定より早く現れることがある。最初の顧客がどこから来ているかに注目しよう。
  2. 海外展開はローカライゼーションだけの課題ではない。コミュニケーション、ポジショニング、信頼の構築も同じくらい重要だ。
  3. AIは大きな価値を生み出しうるが、信頼できるデプロイには明確な境界設定、検証、継続的なモニタリングが必要だ。

Chowon氏の活動や協業の可能性に関心のある方は、以下からご連絡ください。

Leapは、日本の中小企業の多言語ウェブ展開と海外デジタルマーケティングを支援しています。グローバル市場への最初の一歩を踏み出したい方、または既存のプレゼンスを強化したい方は、ぜひご相談ください。

Leapへのお問い合わせ: https://www.leap.site/ja/about/#contact

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