海外進出マニュアル

AI時代の海外進出と営業組織── グローバル人材のプロが明かす、東南アジア攻略と即戦力人材の見極め方

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Leap 編集部
Leap 編集部
海外ビジネスのエキスパートチーム
AI時代の海外進出と営業組織── グローバル人材のプロが明かす、東南アジア攻略と即戦力人材の見極め方

日本企業の海外展開に対する熱量は、ここ数年で急速に高まっています。円安の加速、国内市場の縮小、そしてAIによる業務効率化の波——これらが重なり、「今こそ海外を取りに行く」という機運が中小企業の間でも広がっています。

しかし多くの経営者が直面するのは、「どこから手をつければよいか分からない」という壁です。Webサイトの多言語化、現地へのリーチ方法、それから海外で通用する人材をどう採用・活用するか。この3つが揃って初めて、海外進出は現実のものとなります。

今回は、Morgan McKinley Japanにて日本のIT・SaaS業界の営業人材紹介を専門とするMukmin Faris氏にインタビューを行いました。マレーシア出身というバックグラウンドと、テクノロジー業界の採用最前線からの視点で、海外市場の攻略法とAI時代に求められる人材像を語っていただきました。

Mukmin Faris 氏

Mukmin Faris 氏 Morgan McKinley Japan|Enterprise Technology Division Consultant|Enterprise Technology Specialist SaaS・クラウド・サイバーセキュリティ・AI領域における営業人材の採用支援を専門とする。日系・外資系を問わず幅広い企業を支援し、ミドル〜シニアレベルの個人貢献者からリーダーシップ人材まで、収益創出・顧客接点領域のサーチを強みとする。宇都宮大学で生物学を専攻後、広告代理店での営業・採用経験を経て現職に至る。マレーシア出身。

東南アジア市場で本当に刺さるWebサイトとは

──まず、東南アジア、特にマレーシア市場に向けた情報発信・Web戦略について教えてください。日本企業が現地で「存在感」を出すためには、何が必要でしょうか?

「翻訳」と「ローカライズ」は、まったく別物です。ここを混同している日本企業が非常に多い。

マレーシアをはじめとする東南アジア市場は、デジタルシフトが急速に進んでいますが、依然として「多言語対応」と「現地に合わせたデザイン」の壁は高い。英語にテキストを置き換えるだけでは、現地のユーザーには刺さらなません。色使い、レイアウト、コピーのトーン——これらすべてを現地の感覚に合わせて設計する必要があります。

たとえばマレーシアでは、マレー語・英語・中国語(繁体字)が混在する多言語社会です。ターゲット層によってどの言語を前面に出すべきかが変わります。マレー系ユーザーに対してはバハサ・マレーシア(マレー語)でのアプローチが親近感を生み、華人系には繁体字または簡体字が有効なケースもある。ベトナムやフィリピンでも同様に、言語ひとつとっても細かいチューニングが必要です。

加えて、価格設定の透明性や、「なぜこの日本企業を選ぶべきか」という信頼の根拠を現地ユーザーの目線で伝えることが重要です。日本品質への信頼は確かに東南アジアでも根強いですが、それを自動的に享受できるわけではない。きちんとコンテンツとして言語化し、文化に合った形で届ける必要があります。

──コスト面ではどうでしょうか。Webサイトのローカライズには多額の費用がかかるイメージがあります。

それが、今は大きく変わりつつあります。以前であれば、3言語対応のWebサイトを制作するだけで数十万〜数百万円の初期投資が必要でした。翻訳会社、Webデザイナー、SEO担当——それぞれに外注するコストが積み重なる。

しかし今は、AIを活用したツールで、月額1万円という桁違いのコストパフォーマンスで多言語サイトを構築・運用できる時代になっています。私自身、マレーシア人向けのコミュニティ運営やコンテンツ制作の経験がありますが、現地の目線で見ても、この手軽さとクオリティのバランスは非常に魅力的です。スタートアップや中小企業にとって、参入障壁が劇的に下がったと言えます。

「海外展開はコストがかかる」という先入観が、日本企業の一歩を遅らせてきた部分があります。今こそそのイメージをアップデートすべきタイミングです。

日本のIT企業が今、本当に抱えている課題

──人材採用の現場から見て、日本のIT・SaaS企業はどのような課題を抱えていますか?

大きく3つの構造的な課題があると感じています。

第一に、「機能を売る」営業組織からの脱却ができていない SaaSプロダクトの機能やスペックの差は、AIの進化によって急速に縮まっています。どの会社も似たような機能を持つプロダクトを出せるようになってきた。そうなると、「うちの製品はこれができます」という説明型の営業では差別化できない。顧客が本当に必要としているのは、ビジネス課題の解決です。その課題を深くヒアリングし、プロダクトとの接点を見つけ、伴走できる営業こそが今求められています。 日本のIT企業は依然として「プロダクトアウト」の思考が強い。機能開発には投資するが、その機能が顧客にとってどんな価値を生むかを伝える「ストーリー」の設計が弱い。これは採用している人材の質の問題というより、組織の構造と文化の問題です。

第二に、カスタマーサクセスへの過小投資 SaaSビジネスの収益はサブスクリプション(継続課金)で成立します。つまり、新規顧客を取ってきても、使いこなせずに解約されてしまえば意味がない。チャーン(解約率)をコントロールするためには、導入後のオンボーディングと継続的なサクセス支援が不可欠です。 しかし現実には、カスタマーサクセスの組織が整備されていない、もしくは「サポート」と混同して軽視されているケースが多い。売上が伸びないと感じている企業の多くは、実は「獲得」より「継続」に問題を抱えています。

第三に、グローバル人材の活用が進んでいない 日本のIT企業が海外市場を取りに行こうとするとき、現地の言語・文化・商習慣を理解した人材が圧倒的に不足しています。英語対応ができる日本人を配置するケースは多いですが、それと「現地で生きてきた人間の感覚」は全く異なります。 東南アジア市場に進出するなら、現地出身者やその文化に深く精通したバイリンガル人材をチームに組み込むことが、最短距離です。ローカライズは翻訳ツールだけでなく、「人」によっても実現されます。

AI活用の実態──「使っている」と「使いこなしている」の大きな差

──AIブームを受けて、企業の現場ではAI活用はどこまで進んでいますか?

正直に言うと、「使っている」企業と「使いこなしている」企業の間に、大きな格差が生まれています。

多くの企業では、ChatGPTやCopilotなどのツールを導入したものの、「メールの文章を整えるのに使っている」「議事録を要約するのに使っている」という段階で止まっています。これはAIの能力の5〜10%しか使えていない状態です。 営業プロセスで言えば、AIは以下のような場面でこそ真価を発揮します。

  • リスト作成・ターゲティングの自動化:業界・規模・役職などの条件でリードを自動生成し、アプローチ優先度を判断する。
  • パーソナライズされた提案資料の生成:顧客の会社情報、課題、競合状況をインプットすれば、個別最適化された提案のドラフトを数分で作れる。
  • 商談後のフォローアップ自動化:商談メモをAIに渡せば、ネクストアクション、フォローメール、議事録を自動生成できる。
  • 予算・意思決定プロセスの分析:過去の受注・失注データをAIに学習させることで、成約確率の高い顧客パターンを見抜けるようになる。

これらを組み合わせると、一人の営業担当者が動かせる打席数が文字どおり「倍以上」になります。以前は1日10件のアプローチが限界だったとすれば、AIを使いこなせば20〜30件に増やすことができる。同じ人員でも、行動量と質を同時に高められる。 私が採用支援している企業の中でも、AIを戦略的に組み込んでいる営業組織は、そうでない組織と比べて明らかに成果が出ています。導入しているかどうかより、「どのプロセスにどう組み込んでいるか」が成否を分けます。

──一方で、AIに代替される営業職の不安も聞かれます。実際のところはどうでしょうか?

これは私が採用市場で最もよく聞かれる質問の一つです。結論から言えば、「AIに代替される営業」と「AIによって価値が高まる営業」が明確に二極化しています。

代替されるのは、情報収集・整理・連絡といった定型作業が主な仕事だった営業です。逆に言えば、そうした作業はAIに任せて、「顧客との関係構築」「課題の本質を見抜くヒアリング力」「意思決定者を動かす提案力」に集中できる営業の市場価値は、急速に上がっています。

AIは顧客の感情を読んで信頼関係を築くことはできません。交渉の場で相手の本音を引き出し、「この人に任せたい」と思わせるのは、依然として人間にしかできないことです。だからこそ、「人間力」を持った営業人材の争奪戦は、むしろ激しくなっています。

営業人材市場の今──採用担当者が見ている「本当の評価軸」

──Morgan McKinleyの採用現場から見て、IT・SaaS企業が今最も求めている人材像を教えてください。

採用要件の「見た目」と「本音」は違います。求人票には「英語力N1レベル」「SaaS営業経験3年以上」などと書かれていますが、採用担当者が最終的に見ているのは別のことです。

一つ目は「学習速度」です。テクノロジーの世界は変化が速すぎる。昨年まで最先端だったプロダクトが今年には陳腐化することもある。そのスピードに追いつき、自らアップデートし続けられる人材かどうか。面接では「直近で自分から学んだことは何か」「それをどう仕事に活かしたか」を必ず確認します。

二つ目は「数字への執着と説明力」です。SaaS営業は「パイプライン管理」「ARR(年間経常収益)」「チャーンレート」といった指標で動きます。自分の成果をデータで語れる人材は、どの企業でも重宝されます。「頑張りました」ではなく「前四半期比でパイプラインを40%増やし、ARRに〇円貢献した」と言える人は、採用市場でも圧倒的に強い。

三つ目は「多様な環境への適応力」です。外資系SaaS企業であれば、チームメンバーがインド、アメリカ、シンガポールに散らばっていることは珍しくない。非同期コミュニケーション、文化的背景の違い、英語でのプレゼン——これらに対してストレスを感じずむしろ楽しめる人材かどうか。

──では逆に、採用市場で苦戦しているのはどんなタイプでしょうか?

「何でもできます」アピールをする人は、意外と内定が出にくい。特定の強みが見えないと、採用側は「何かに尖っていないと、変化の速い環境では生き残れない」と判断します。

また、「現職の不満」を転職理由にしている人も弱い。なぜその会社・プロダクトでなければならないのか。「逃げる転職」より「攻める転職」をしている人の方が、採用担当者には明確に伝わります。

海外進出を加速させたいSaaSスタートアップが求めているのは、自分でビジョンを持ち、不確実な環境でも自走できる人材です。「指示待ち型」の優秀な人は、大企業でこそ活躍できますが、成長フェーズの組織では噛み合わないケースが多い。

10名規模のスタートアップが採用で勝つための戦略

──認知度がまだ低い段階のスタートアップは、どうすれば優秀な人材を採用できますか?

採用は「マーケティング」と同じです。知られていない会社に人は来ない。だから、まず「知ってもらうこと」から始める必要があります。

具体的には、LinkedInでの継続的な情報発信が最も即効性が高い。CEOやコア人材が自分たちのビジョン、プロダクトへの思い、日々の試行錯誤を発信することで、「この会社はこういう価値観で動いている」という文脈が伝わります。それが、スペックより「一緒に働きたい」という感情的な共鳴を生む。

重要なのは、「ツールの機能」より「中の人間の熱量と思想」を発信することです。プロダクト紹介より、「なぜこれを作っているのか」「何を変えたいのか」というWHYを語ることで、文化にフィットする人材が引き寄せられます。

また、ダイレクトリクルーティング(スカウト型採用)を積極的に活用すべきです。待ちの採用ではなく、自分たちのターゲット人材像を明確にして、能動的にアプローチする。Morgan McKinleyのような人材紹介会社を活用する際も、「どんな人物像を求めているか」を定性的・定量的に詳細に伝えることが、マッチング精度を高めるポイントです。

海外展開×AI×人材──3つの掛け算で日本企業は変わる

──最後に、海外進出を検討している中小企業の経営者・海外担当者へのメッセージをお願いします。

「海外展開」「AI活用」「人材戦略」——この3つは、これまで別々に考えられてきましたが、今後は一体として設計する必要があります。

AIを使って多言語サイトを低コストで立ち上げ、現地市場にリーチする。同時に、AIを使いこなせるグローバル人材を採用し、現地の文化と言語に寄り添った顧客体験を作る。この掛け算が機能したとき、日本の中小企業は今までにないスピードと精度で海外市場を開拓できます。

よく「うちはまだ小さいから」「英語が得意な人がいないから」という声を聞きます。でも今は、その「小さい」という機動力こそが武器になる時代です。意思決定が速く、変化に柔軟に対応できる中小企業は、大企業が動けない場所で先手を打てる。

人材の面では、「完璧なスペックの人を採る」より「会社のビジョンに共鳴して、一緒に走ってくれる人を採る」方が、スタートアップ・成長企業にはずっと大切です。それは採用の基準を下げることではなく、評価軸を変えることです。

Webでの情報発信、採用ブランディング、現地ネットワークの構築——これらすべてをいきなり完璧に揃える必要はありません。できることから一歩ずつ始め、データを見ながら改善していく。それが、最終的に海外展開を成功に導く道だと思っています。

まとめ:AI時代の海外進出に必要な3つの視点

今回のインタビューから見えてきたのは、以下の3点です。

  1. ローカライズは「翻訳」ではなく「文化の理解」から始まる 多言語対応は大前提ですが、現地ユーザーの感覚・文化・美意識に合わせたUI/UXとコンテンツ設計が、信頼と集客の鍵を握ります。今はAIツールの活用で、そのコストは劇的に下がっています。
  2. AIを「使っている」と「使いこなしている」は別次元 AIによって営業プロセスの定型作業は自動化できます。それをどのプロセスに組み込み、行動量と質を同時に高めるか——この設計ができている組織が、採用市場でも事業成果でも先を行っています。
  3. 人材は「スペック」より「文化適合と自走力」で選ぶ 成長フェーズの組織に必要なのは、不確実な環境でビジョンを共有し、自ら動き続けられる人材です。グローバル対応も、英語力の有無より「多様な環境を楽しめるマインド」の方が長期的には重要です。

海外進出は、大企業だけのものではありません。AIという強力な武器と、適切な人材戦略を組み合わせれば、中小企業でも世界と戦える時代が来ています。


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