海外マーケティング

創業90年・売上700億円の医療機器商社が挑む次の一手──再生医療・AI・海外展開、老舗が描くデジタル変革の全貌

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Leap 編集部
Leap 編集部
海外ビジネスのエキスパートチーム
創業90年・売上700億円の医療機器商社が挑む次の一手──再生医療・AI・海外展開、老舗が描くデジタル変革の全貌

北海道を拠点に創業90年、売上700億円規模にまで成長してきた医療機器商社「株式会社竹山」。医薬品と医療機器の卸を一社で手がける全国でも珍しい体制を構築し、整形外科・循環器分野で深い専門性を誇る同社が今、再生医療・AI・海外展開という新たなフロンティアに踏み出そうとしています。マーケティング部門を統括する取締役 執行役員の嶋本 哲哉氏に、業界の変化とデジタル戦略の本音を語っていただきました。

嶋本 哲哉(Shimamoto Tetsuya)様

嶋本 哲哉(Shimamoto Tetsuya)様 株式会社竹山 取締役 執行役員 営業本部マーケティング部長。医療機器商社としての深い業界知識を活かし、マーケティング戦略の立案・実行と営業推進に注力。GPO(購買グループ組織)の運営委員長を5年ほど務めた経験も持ち、医療現場と流通双方への深い理解を強みとする。チームとともに市場拡大と顧客満足度の向上を目指している。

医薬品と医療機器を一社で卸す──全国でも珍しい「ワンストップ体制」の強み

──はじめに、株式会社竹山の事業内容と強みについて教えてください。

竹山は昨年で創業90周年を迎えました。北海道を中心に医療機関へのサポートを続けてきた会社ですが、私たちの一番の強みは医薬品の卸と医療機器の卸の両方を一社で担える体制を持っていることです。これは全国的に見ても非常に珍しいことで、当社が先駆けのひとつではないかと自負しています。

病院や診療所の購買担当者にとって、医薬品と医療機器を別々の業者から調達するのは手間がかかります。竹山ならその窓口を一本化できる。この利便性と可能性の選択が、長年にわたって医療機関に選ばれてきた大きな理由のひとつです。

専門領域では整形外科・低侵襲(ロボット手術)、循環器系に特に強みを持ちます。高度な専門機器を扱うには、単に商品を届けるだけでなく、医師や医療スタッフに対する技術的なサポートが欠かせません。そのために日本の卸で初めてメディカルトレーニングセンター「ビレッジプラス」を設立し、医療従事者への教育・研修支援にも力を入れています。手術手技のトレーニングや新しい機器の使用研修を提供できる卸業者は、全国でもそう多くはありません。

また、MDL(医療材料)物流研究会にも参画し、医療現場における物流の効率化・標準化を追求しています。2026年5月には次世代医療物流に向けた取り組みとして、国内で初めて自社運航を目的としたドローンの本格導入を発表するなど、医療インフラそのものを進化させるプレーヤーとして存在感を高めています。

卸業界で初めて再生医療を手がける──先端医療との向き合い方

──新規事業への取り組みについても教えていただけますか?

はい。私たちが特に力を入れているのが再生医療の分野です。竹山は医療機器の卸として、業界でも先駆けて再生医療の製品・サービスを取り扱い始めました。脂肪由来幹細胞治療や真皮細胞移植によるAGAなど、入院を必要としない、短期入院が可能な治療を中心に、リーズナブルな治療を多くの方に提供できる体制の構築を進めています。

再生医療はまだ市場としては黎明期ですが、超高齢社会を迎えた日本では確実にニーズが拡大します。医療機器商社としての専門ネットワークと信頼を活かして、この新しい治療技術を医療現場に届けることに、大きな意義があると感じています。

もうひとつの柱が脳機能×AIの医療応用です。韓国のNeurophet社との日本総代理店契約を締結し、AIによる効率的な認知症画像診断の提供とあわせ、AIによる言語流暢性を用い一分間の会話で認知機能を評価する「Alzwin」も国内総代理店として取り組みを進めています。認知症は日本が世界で最も深刻に向き合わなければならない疾患のひとつ。AIによる早期スクリーニングや判定支援は、今後の医療体制にとって不可欠な技術になると確信しています。

今後もAI医療ツールの開発と実証を進めています。リハビリ分野では、高齢化社会において国が進める地域包括ケア体制において重要になるリハビリテーションの業務効率化を目的とした、ソニーネットワークコミュニケーションズが提供するリハビリテーション病棟向け患者予後予測AIソリューション「Prediction One」を扱っており、デジタルと医療の融合による効率化という大きな流れにしっかり乗ろうとしています。

私は医療機器卸企業による日本初のGPO(Group Purchasing Organization=医療機関の共同購買組織)の運営委員長を5年ほど務めています。その現場感覚があるからこそ、どんな技術が実際の医療現場で使えるのか、何が本当に求められているのかを肌感覚で判断できる。それが我々の強みでもあります。

海外展開の最前線──韓国・シンガポール・タイ、それぞれのリアル

──海外展開については、現在どのような状況でしょうか?

いくつかの形で海外との接点を持っています。まず韓国ITファンドを通じた情報交換の提携を結んでおり、先ほど触れたNeurophet社との連携もそのひとつです。韓国は医療AI技術の発展が著しく、日本が学べる部分が多々あります。

シンガポールとは脳波関連の技術を軸に交流を持っています。シンガポールに拠点を置く企業は、実態として中国系資本のことも多いのですが、中国本土への直接参入よりも法的リスクが低く、アジア展開の足がかりとして現実的な選択肢です。

中国市場については、慎重にならざるを得ません。知的財産の保護や規制の複雑さ、訴訟リスクなど、中小企業がそのまま参入するにはハードルが高すぎます。過去には中国のSNS「小紅書(RED)」を使ったマーケティングも検討しましたが、文化的・言語的な壁や規制面の不透明さもあって、うまくいきませんでした。台湾・シンガポールの方が日本企業にとって取り組みやすい市場だと実感しています。

最も注目しているのがタイです。タイの現地法人との接触を通じてわかったことがあります。タイには呼吸器疾患にかかわる製品を扱うドラッグストアが非常に多いこと、そして高齢化に伴う認知症・リハビリへのニーズが急速に拡大していると実感しています。日本が先行して経験してきた「超高齢社会の医療課題」と、竹山が持つソリューションの親和性が高い。タイは今後本格的に開拓していきたい市場です。

──海外展開で中小企業が最初につまずくポイントは何でしょうか?

情報不足と、それに伴う「どこから始めればいいかわからない」という状態が最大の壁だと思います。市場調査も、現地パートナーの開拓も、自社だけでやろうとすると途方もないコストと時間がかかる。まずは小さく動きながら学んでいくことが重要です。

たとえばタイへの展開を考えるにしても、「タイ全体に売る」のではなく「バンコクの特定の医療機関や薬局チェーンに絞って試す」という発想が大切です。ターゲットを狭めて深く入ることで、現地のリアルな課題やニーズが見えてきます。

15年前のネット販売失敗が教えてくれたこと──「卸業に広告文化はない」という壁

──デジタル化やEC活用についての現状を聞かせてください。

実は竹山は今から15年ほど前に、社内でネット販売の会社を立ち上げたことがあるんです。健康食品、例えば日本で初めて栽培されたマカなども販売していました。しかし、結果としてうまくいきませんでした。

失敗の本質は「商品をネット上に並べれば売れる」という思い込みにありました。実際には、検索で見つけてもらうためのSEO対策、広告で認知を広げるための費用と知識、購入につなげるための導線設計など、デジタルマーケティングには専門的なノハウが必要です。それを持たないまま参入しても、競合に埋もれるだけです。

卸業界には、そもそも「宣伝・広告」という文化が根付いていないという構造的な課題があります。BtoB中心のビジネスでは、長年「人が足を運んで売る」文化が主流でした。営業担当者が医療機関を回り、信頼関係を築いて受注する。その方法が機能してきたからこそ、デジタルで発信する必要性が感じにくかった。

でも、これからの時代はそれだけでは通用しません。医師もバイヤーも、商品の情報をまずインターネットで調べる時代です。ウェブ上に存在感がなければ、最初の検討候補にすら入れてもらえません。

──Leapからの提案はどのように映りましたか?

低コストでECサイトを構築し、SEOと多言語対応を組み合わせることで海外からのアクセスも獲得できるという提案は、理にかなっていると感じました。AIを使ったコンテンツ制作の話も興味深かったですね。

自社でデジタル人材を採用・育成しようとすると、それだけで大きなコストと時間がかかります。しかし外部パートナーと組めば、スモールスタートで基盤を作りながら、成果を見ながら拡張していくことができる。海外展開を本気で考えるなら、早い段階でデジタルの発信基盤を作っておくべきだと実感しました。

竹山の強みと、これから目指す姿

竹山が90年かけて積み上げてきた強みを整理すると、以下のようになります。

医薬品×医療機器の一体卸という希少なポジション 全国的にも珍しい体制で、医療機関の調達窓口を一本化できる圧倒的な利便性を提供。

整形・循環器領域での専門性と現場密着力 メディカルトレーニングセンターによる医療スタッフへの教育支援も含め、単なる商品供給を超えた付加価値を提供。

医療物流の先進化 MDL物流研究から始まり、2026年にはドローンによる次世代医療物流の本格導入へ。業界のインフラを変えようとしている。

新領域への果敢な参入 再生医療(卸業界での先駆者)、AI医療(Neurophet社との連携・Icoms設立)、ソニーネットワークコミュニケーションズ等との連携による、テクノロジーと医療の融合を牽引。

海外との多面的なネットワーク 韓国(IPファンド・AI連携)、シンガポール(脳波技術)、タイ(認知症・呼吸器ニーズへの対応)など、アジア全域に点在するパイプを持つ。

海外展開を目指す中小企業経営者へのメッセージ

──最後に、海外展開を検討している中小企業の経営者・海外担当者へ向けてアドバイスをお願いします。

日本の企業、特に地方の中堅・中小企業は、外から見えていないだけで、世界に通用する強みを持っているところが多いと思います。竹山でいえば、再生医療の取り扱いや認知症向けAIスクリーニング、ドローンを使った医療物流など、アジアの発展途上の医療市場では非常に価値がある技術やサービスです。

問題は、その価値が「伝わっていない」ことです。日本語のウェブサイトしかなければ、海外の医療機関や投資家がどれだけ興味を持っていても、詳細を調べる手段がありません。SNSで発信しようとしても、文化的・言語的な壁があります。

だからまず必要なのは、多言語で情報発信できるデジタル基盤です。英語はもちろん、タイ語・韓国語など対象市場の言語でコンテンツを発信できることが、現地の信頼獲得への第一歩です。

次に重要なのがSEO戦略です。現地のバイヤーや医療機関が「医療機器 卸 日本」「認知症スクリーニング AI」などと検索したとき、自社のページが上位に表示されるかどうか。これが海外からの問い合わせを生む出発点になります。

竹山自身、デジタルと海外展開はまだ発展途上です。でも、90年の歴史で培ってきた専門性と信頼という資産は本物です。その強みをデジタルの力で増幅させることができれば、次の90年に向けた大きな飛躍につながると信じています。


参考資料

取材協力:株式会社竹山 嶋本 哲哉 様(取締役 執行役員 営業本部マーケティング部長)

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