海外進出マニュアル

ベトナム市場調査のプロが教える「現地消費者のリアル」──インテージベトナム・青葉大助氏が語る、進出前に知っておくべきこと

読了時間: 約 10.888分

Leap 編集部
Leap 編集部
海外ビジネスのエキスパートチーム
ベトナム市場調査のプロが教える「現地消費者のリアル」──インテージベトナム・青葉大助氏が語る、進出前に知っておくべきこと

「ベトナムに進出したい」──そう考えたとき、多くの中小企業の経営者が最初に直面するのは「現地の消費者が何を求めているか、まったくわからない」という壁です。市場の成長性はデータで示せても、「自社の商品が現地で受け入れられるか」は、実際に調べてみなければわからない。

インテージベトナムで主に日系企業の市場調査の相談役を引き受ける青葉大助さんは、毎日その問いに向き合っています。食品飲料から日用品まで、ベトナム進出を目指す企業のリサーチを支援してきた経験から、「現地消費者のリアル」と「調査を活かした進出戦略」について語っていただきました。


青葉 大助(あおば だいすけ)さん インテージベトナム アソシエイトディレクター。ベトナム市場に参入・拡大を目指す日本企業や海外企業に向けて、消費者調査・購買データ分析などのリサーチソリューションを提供。食品飲料・日用品・耐久消費財・オートモーティブなど幅広い業種のクライアントを支援しており、定量・定性・個人購買データと多角的な手法でベトナム消費者のインサイトを日々掘り起こしている。


インテージのベトナム調査とは何か

──まず、青葉さんが担当されている業務について教えてください。

インテージは国内最大手のリサーチ会社ですが、海外調査に力を入れており、私はその中でインテージベトナムで駐在員として現地における調査をサポートしています。ベトナム市場を調査したい日系企業や、現地企業及びグローバル系企業に向けて、消費者調査や市場分析などのソリューションを提供しています。

クライアントの業種は食品・飲料が比較的多いですね。ベトナムで生産している企業もあれば、タイで作ってベトナムに輸入しているケース、日本で製造してベトナムに輸出しているケースと、バリューチェーンはさまざまです。食品・飲料に次いで多いのが日用品など、全般にいわゆるFMCG(Fast Moving Consumer Goods)と呼ばれる業界のニーズが高く、それ以外では、家電及び二輪や四輪のオートモーティブ含む耐久消費財などですが、FMCGと比較するとまだプロジェクト数は控えめです。

──家電や耐久消費財が少ないのはなぜでしょう?

ベトナムに限らずFMCG業界におけるリサーチの活用は世界的に最も進んでいると言えます。ベトナムにおいてもまた、FMCGの市場が伸び盛りですので、相対的に家電や耐久消費財の調査はまだ少ない。毎日購入される食料品や日用品の競争環境は激しく、企業は頻繁に自社の置かれている市場の状況を調べる必要があるのです。


ベトナムで「何を」調査しているのか

──具体的にはどのような調査をしているのですか?

食品・飲料で多いのは、消費者の嗜好やニーズに関する調査です。「この商品の味はベトナム人に合うか」というのはもちろん、ブランドの認知度、パッケージデザインの印象、「どのような訴求文言が刺さるか」といったコンセプト調査まで幅広く手がけています。

「日本製」と明示するべきかどうか、という相談もよくあります。日本ブランドへの信頼は高いですが、それを全面に出すべきかどうかは商品カテゴリや価格帯によって変わってきます。調査で実際に消費者に聞いてみると、思っていたよりも「日本製」が刺さらないケースもあれば、逆に決定的な差別化要因になるケースもある。思い込みで判断せず、データで確認することが重要です。

調査のタイミングとしては、商品発売前と発売後の両方を実施するクライアントが多いです。発売前に「売れるか」を確認し、発売後に「なぜ売れた・売れなかったか」を検証する。PDCAをデータで回す仕組みを持っている企業は、やはり現地での成長が早いと感じます。


3つの調査手法──それぞれの強みと使い方

──調査の手法にはどのようなものがありますか?

大きく3つあります。定量調査、定性調査、そして購買データを使った新しい調査です。

定量調査 は、アンケート票を使って多くの消費者から数値データを集める手法です。「去年と比べてどう変わったか」「競合ブランドとの比較でどうか」という経年・競合比較ができるのが強みです。

ここで面白いのが、日本とベトナムの調査方法の違いです。日本ではほぼオンラインで完結しますが、ベトナムでは「調査員」と呼ばれるスタッフが実際に街に出て、対面でアンケートをとることが多い。人件費が安いからこそできる手法ですが、それ以上に「オンラインだけでは届かない層」に確実にリーチできる点が大きい。都市部の若い世代だけでなく、幅広い年齢層・所得層のリアルな声を集められます。

定性調査 は、消費者と直接向き合って深く話を聞く手法です。グループインタビューや個人インタビューなど、会場や消費者の自宅で実施します。「なぜそう感じるのか」「何がネックになっているのか」という深層心理に迫れるのが特長で、依頼件数も非常に多い。数字だけではわからない「感情的なインサイト」を掘り起こすには、定性調査が欠かせません。

個人購買パネルデータ は、最近正式にローンチした新しいシンジケートデータです。消費者が専用アプリでレシートをスキャンするだけで、購買履歴のデータが蓄積される仕組みです。「どの商品が、どの時期に、どこでどの価格帯でどれだけ何と一緒に買われたのか」がリアルタイムで把握できるものです。市場全体の動きをトレンドで捉えたいとき、特に威力を発揮します。この個人購買パネルデータですが、これはベトナム初のデータです。これまでは知りたくても調べる手段がなかった。ベトナム市場に取り組む全てのマーケターにとって朗報と言えるでしょう。


ベトナム市場の「常識」は日本の常識と違う

──ベトナム市場の特性として、日本企業が知っておくべきことはありますか?

一番重要な違いは、「価格と品質の相関関係」です。日本は成熟市場ですから、価格がとてもやすいのに、品質がとても高いという構造が当たり前となっていて、各社しのぎを削っている。でもベトナムは違います。いわゆる「安かろう悪かろう」というイメージが強く根付いており、粗悪品も実際に多く流通しています。価格は品質を見極める一つの重要な指標です。一方で、コスパ要求も非常に強いものがあり、短期間に思った効果(ベネフィット)が得られない場合は、あっさり切り捨てられるので、いくら高くて良いものであっても釣り合わないものは買ってもらえない。

価格、品質、ブランド力、商品ベネフィットの最適バランスを探るのは、商品カテゴリーやエリアや所得水準などの要素によって様々ですが、日系企業がベトナムの消費者に受け入れられるかどうかという点において非常に重要になります。

──製品サイクルの速さについてはいかがでしょうか?

ベトナムは新しい企業・商品がどんどん参入してくる市場です。そのため製品の市場投入サイクルが非常に速い。消費者も新しいものへの興味・好奇心が旺盛で、特にホーチミンはハノイよりもさらに「新しいもの好き」の傾向があります。

これはチャンスでもあり、リスクでもあります。新商品として注目を集めやすい反面、すぐに次の新商品に意識が移ってしまう。だからこそ、「どのタイミングで調査し、どのタイミングで商品改良や販促を打つか」というPDCAのスピードが、競合に差をつける鍵になります。ベトナム企業や韓国企業などは、その意思決定スピードが桁違いに速いのでいつも驚かされます。


「日本製」は武器になるのか──データが示す現実

──「日本製」のブランド力はどう評価されていますか?

ベトナムでは一般的に「日本製=高品質・安心」というポジティブなイメージがあります。ただ、それをどう活かすかは戦略次第です。

私たちの調査でわかっているのは、「日本製」の訴求が効果的なカテゴリと、それほど効かないカテゴリがあるということです。食品・飲料・日用品の中でも、健康や安全性が購買判断に強く影響するカテゴリでは、日本製の表示が有効に機能することが多い。一方で、従来は日本製が喜ばれていたような化粧品などは、韓国やタイのブランドの台頭で苦戦しているという状況の変化も見られます。

「日本製だから売れる」という思い込みを持って進出すると、現地の反応にギャップを感じることがあります。逆に「現地に合わせすぎて日本らしさを消す」のもブランドの強みを失うことになる。このバランスを調査データをもとに調整していくことが大切です。


進出前調査で失敗を防ぐ──よくある落とし穴

──事前のマーケティングリサーチをしないまま進出してしまう企業の失敗パターンはありますか?

よくあるのが、「日本で売れているから、ベトナムでも売れるはず」という思い込みだけで動いてしまうケースです。味の好み、甘さや辛さの基準、パッケージに対する感覚、価格への感度──これらはまったく異なります。日本で人気のラーメンが、ベトナムでは「塩辛すぎる」と敬遠されることもあります。日本人の口には薄味すぎるくらいがちょうど良いので、ベースとなる味の濃さを薄目にする。日本人にとって美味しくない味が美味しい場合もあります。つまり、日本では売れそうにないものがベトナムで支持されることもあるのです。

もうひとつは、「ホーチミンで調べたからベトナム全体がわかった」という思い込みです。ベトナムはホーチミン(南部)とハノイ(北部)で消費傾向がかなり異なります。新しいもの好きのホーチミンと、より保守的な傾向のあるハノイでは、同じ商品でも反応が違う。進出ターゲットの地域を絞った上で、その地域に特化したマーケティングリサーチが必要です。


マーケティングリサーチを「コスト」ではなく「投資」と捉えてほしい

──予算が限られている企業には、マーケティングリサーチはハードルが高く感じられることもあると思います。

その気持ちはよくわかります。でも、マーケティングリサーチをせずに進出して失敗するコストと比べれば、事前のマーケティングリサーチは圧倒的に安い『保険』です。

たとえば、定性調査だけに絞って「自社商品のどこが響くか、何がネックになるか」をまず把握する。そこから仮説を作り、次に定量調査で検証する。すべてを一度にやる必要はなく、フェーズを分けて段階的に進めることで、コストを抑えながら精度を上げることができます。

個人購買パネルデータは特に、「まずベトナム市場全体の動向を把握したい」という入口として活用しやすいです。自社商品がまだないうちから、市場のトレンドや競合の動きを面で捉えることができます。

何より、「思い込みをデータで壊す」ことが最大の価値です。進出を決断する前に、自社の仮説が正しいかどうかを確認する。それだけで、判断の精度が格段に上がります。


青葉さんからのメッセージ──「現地のリアル」を知ることが、すべての出発点

──最後に、ベトナム進出を検討している企業の経営者・担当者へのメッセージをお願いします。

ベトナムは確かに魅力的な市場です。経済成長が続いており、若い人口構成と旺盛な消費意欲がある。日本製品へのポジティブなイメージも根強い。でも、「なんとなく売れそう」という感覚だけで進出すると、必ずどこかで壁にぶつかります。

一番大切なのは「現地の消費者がどう感じているか」を、自分たちの思い込みではなくデータで確認することです。それは大企業だけがやることではなく、むしろリソースが限られている中小企業においても、「外してはいけない判断」をデータで支える必要があります。

マーケティングリサーチというと敷居が高く感じるかもしれませんが、まずは「自社商品を現地の消費者に見せて、率指な感想を聞く」という定性調査から始めるだけでも、得られるものは非常に大きい。「思っていたのと全然違う」という発見が、戦略を正しい方向に向かわせてくれます。

ベトナムで成功している企業に共通しているのは、現地をよく知ろうとし続けることです。進出してからも継続的に市場を観察し、消費者の変化に対応し続ける。その習慣を持せるかどうかが、長期的な競争力の源泉だと思っています。

この記事をシェアする

Leap global business

Leapでグローバルに
飛躍しましょう。

海外売上を伸ばすためのオールインワンツール

多言語HP作成、越境ECの開設・運用、多言語コンテンツ制作、海外向けSNS運用、そして現地の代理店マッチングまで。
Leapなら、複雑な海外展開のプロセスを一元管理し、効率的に海外売上を拡大させることができます。

リンクをコピーしました