海外進出マニュアル

銀行が教える海外展開の現実──中国銀行・辰己誠氏が語る、中小企業が海外で成功するために知っておくべきこと

読了時間: 約 12.252分

Leap 編集部
Leap 編集部
海外ビジネスのエキスパートチーム
銀行が教える海外展開の現実──中国銀行・辰己誠氏が語る、中小企業が海外で成功するために知っておくべきこと

海外展開を考えている中小企業の経営者が、最初に壁にぶつかるのは「何から始めればいいかわからない」という点ではないでしょうか。現地の商習慣も、信頼できるパートナーも、リスクの全貌も、手探りで進まざるを得ない。そんな中小企業の海外進出を、金融機関の立場から長年にわたって支えてきたのが、中国銀行 国際部長の辰己 誠氏です。

大連、ニューヨークでの駐在経験を有し、正式には香港・シンガポール・ニューヨークなど世界6拠点を束ねる国際部を率いる辰己氏に、海外展開のリアルと、中小企業が陥りがちな失敗、設置すべき成功への道筋を聞きました。


辰己 誠(たつみ まこと)さん 中国銀行 国際部長。1999年に中国銀行に入行後、本店融資部を経て、2013年より大連の山口銀行大連支店へ出向。帰国後、中国銀行国際部に5年間在籍し、2019年よりニューヨーク駐在員事務所長を務める。現在は国際部長として、国内中小企業の海外展開を幅広く支援。米国公認会計士、中小企業診断士の資格を持ち、英語・中国語に堪能なマルチリンガル。現在も自ら学び続けるプロフェッショナル。


中国銀行の「国際部」とは何をしているのか

──まず、辰己さんが率いる国際部の活動内容を教えてください。

国際部には国内に40名、海外拠点に35名ほどのスタッフがいます。香港とシンガポールに支店を持ち、バンコク、ニューヨークと上海は駐在員事務所、ベトナムにトレーニーを派遣するなど、現在6拠点で活動しています。

主な業務は、中小企業のお客様の海外への販路拡大支援、現地企業とのマッチング、また残念ながらうまくいかなかった場合の撤退支援、さらにはM&Aのご紹介まで、海外ビジネスにまつわる一連の流れをサポートしています。

拠点ごとに強みがあり、たとえばアジアではベトナムやタイへの進出案件が多く、最近はインドにも注目しています。インドは今後10〜20年スパンで非常に大きなポテンシャルがあると考えています。

──どのような業種の企業が多いですか?

製造業もあれば、卸売業もある、本当に多種多様です。共通しているのは、「国内市場だけでは限界を感じている」という危機感を持っていること。少子高齢化で国内需要が縮む中、売上を維持・拡大するために海外に活路を見出そうとする企業が増えています。


なぜ銀行が海外展開を支援するのか

──銀行が海外ビジネスのマッチングや支援を行うのは、少し意外に思う方もいるかもしれません。

確かに、「銀行=お金を貸すところ」というイメージが強いかもしれません。でも、私たちにとってお客様の事業が成長することが最も大切なことです。そのために何が必要かを考えると、海外展開の支援は自然な流れなんね。

私自身、大連、ニューヨークでの駐在に加え、今まで約40ヵ国を訪問してきた経験もあり、現地のビジネス慣行の知識や人脈を持っています。それを活かして、「現地でどんな企業と組めばいいか」「どのバイヤーにアプローチすればいいか」を一緒に考える。単なるお金の貸し借りではなく、ビジネスパートナーとしての関係を築いていきたいと思っています。

最近では、NECのシリコンバレー拠点との連携を通じて、最新テクノロジーを地元の企業に紹介したり、dotDataという特徴量に強みを持つAIスタートアップのソリューションを、地方銀行では初めて地域のお客様に展開するといった取り組みも行っています。また、為替リスクに対してデリバティブを活用したヘッジのサポートも重要な業務のひとつです。海外ビジネスには為替変動というリスクが常につきまとうので、ここを疎かにすると利益がすべて吹き飛んでしまうこともあります。


海外展開でうまくいった事例

──成功事例を教えていただけますか?

最近うまくいったケースをいくつかご紹介します。

まず、ある食品メーカーさんです。国内の販路が頭打ちになり、海外での販売拡大を模索していました。私たちが現地の日系大手小売チェーンや駅ナカ店舗との接点を作り、そこに商品を置いてもらえるようご支援しました。最初は小さなテスト導入でしたが、徐々に棚が広がっていき、海外売上が順調に伸びています。

もうひとつが、地元の酒蔵さんの事例です。日本酒を造っているのですが、在庫の消化に悩んでいました。「余っているなら、それを必要としている市場に持っていけばいい」という発想で、スペインへの輸出を仕掛けています。現地ではシェリー酒が人気ですが、日本酒の古酒の風味や味がシェリー酒に似ていることもあり、日本酒ソムリエの方とタッグを組んで新たなマーケット開拓に取り組んでいます。

この2つの事例に共通するのは、「マーケットインの発想」です。自社製品を売ろうとするのではなく、「どこに需要があるか」から逆算して、適切なチャネルや市場を見つける。それが海外展開の基本だと思います。


M&Aと海外進出──越えるべき高い壁

──海外でのM&A支援も行っているとのことですが、実際にはどのような難しさがありますか?

M&Aは、正直に言うとご相談の中でも特に難しい案件です。たとえば「ベトナム企業を買収したい」というご相談をいただいても、越えなければならない壁がいくつもあります。

まず、現地企業の実態把握が難しい。日本のように財務情報が整備されていなかったり、帳簿が不透明だったりするケースも少なくありません。私たちはM&A仲介会社と提携してサポートしていますが、それでも情報の非対称性は大きな問題です。

次に、商習慣と言語の壁。時間にルーズだったり、契約に対する意識が異なったり、交渉の進め方自体が日本とまったく違う。私たちが間に入ってフォローしても、お客様が途中で「もう無理だ」と感じて撤退してしまうケースも正直あります。

これは失敗ではなく、むしろ「早めに判断できた」と前向きに捉えていただきたいのですが、海外M&Aは初期段階での徹底した調査(デューデリジェンス)と、長期にわたる粘り強い交渉が必要です。短期間で結果を求めてしまうと、消耗するだけで終わってしまいます。


アメリカで学んだ「外資銀行との協調融資」という仕組み

──ニューヨーク駐在時代はどのような業務をされていたのでしょうか。

ニューヨークでの5年半は、海外企業への融資案件のソーシングが主な仕事でした。現地の外資系銀行から案件を紹介してもらい、その一部を中国銀行が協調融資するという仕組みです。

この経験で痛感したのは、「人脈と信頼」の重要性です。案件は公募されるものではなく、信頼関係のある銀行間で回ってくる。だから、日頃からどれだけ質の高い関係を積み重ねているかが、ビジネスの量と質に直結します。

これは中小企業の海外展開にも言えることです。現地で「紹介してもらえる存在」になれるかどうか。そのためには、誠実に、かつ継続的に関係を築いていくことが不可欠です。

また、シリコンバレーには何度も足を運び、現地ならではの人脈を築いてきました。「CES」や「Money 20/20」など、世界最先端のテクノロジーが集まるイベントにも積極的に参加し、日本ではまだ知られていない知見を持ち帰って国内に共有することにも力を入れていました。

こうして得た人脈や知見は、現在の国際部での業務にも大きく生きています。先ほどお話ししたNECやdotDataとの新たな取り組みはもちろん、銀行全体の戦略を考えるうえで最先端テクノロジーをどう取り入れるかといった場面でも、さまざまに役立っています。


中小企業が海外進出で陥りがちな落とし穴

──海外展開に失敗するパターンはありますか?

よく見られる失敗パターンをいくつかお伝えします。

「人気の国」に飛びついてしまう

ベトナムやタイはたしかに人気の進出先ですが、人気があるということは競合も多い。「皆が行っているから」という理由だけで進出すると、差別化できずに苦戦します。まず「自社の商品やサービスがどの国のどんな顧客に刺さるか」を徹底的に考えてから市場を選ぶべきです。

現地パートナーの見極めを甘くする

現地のディストリビューターや代理店選びは慎重の上にも慎重を期すべきです。最初に「なんとなく話が合う」という感覚で契約してしまい、後で商習慣の違いや信頼性の問題が露呈するケースは非常に多い。当行では現地ネットワークを活かして信頼できる企業をご紹介していますが、それでも実際に取引を始めてから「思っていた会社と違う」というご相談をいただくことがあります。

リスクヘッジをしていない

為替リスクは見落とされがちですが、為替が動くだけで利益が大きく変わります。とくに中小企業は体力が限られているので、利益が出ているつもりでも為替差損で赤字になる、というケースは珍しくありません。デリバティブを使ったヘッジは決して難しくなく、ぜひ早い段階からご相談ください。

スピードを急ぎすぎる

海外ビジネスは、国内以上に時間がかかります。M&Aだけでなく、販路開拓も現地パートナーとの信頼構築も、じっくりと腰を据えて取り組む必要があります。「半年で結果を出す」という期待値では、ほぼ間違いなく挫折します。


銀行をうまく使うための3つのポイント

──中小企業の経営者が、中国銀行のような金融機関をうまく活用するためのコツはありますか?

「銀行はお金を借りる場所」と思っている方が多いのですが、ぜひ「情報と人脈の入り口」として使っていただきたいです。私たちは海外拠点での現地ネットワークを持っており、そこに繋げることが強みです。

具体的には、次の3点を意識していただくと、銀行との関係をより有効に活用できます。

  1. 早めに相談する:海外展開を決めてから相談に来ても、準備が足りていない状態では動きにくい。「まだ検討段階」というタイミングから話をしていただくことで、私たちもより的確なサポートができます。
  2. 何を売りたいか・どこに売りたいかを言語化する:「なんとなく海外に出たい」では、私たちもマッチングのしようがありません。「この商品を、こういう顧客層に、この国で売りたい」という仮説を持って来ていただけると、具体的なご支援がしやすくなります。
  3. 失敗を恐れず、小さく始める:最初から大きな投資をする必要はありません。まず現地の展示会に出展してみる、サンプルを持って行って反応を確かめる、代理店に試験的に扱ってもらう──そういった小さなステップを積み重ねることで、リスクを抑えながら海外ビジネスの経験値を高めることができます。

自分自身が「学び続ける」理由

──最後に、辰己さんご自身は米国公認会計士や中小企業診断士など、多くの資格を取得されています。それはなぜでしょうか?

お客様の相談に乗るためには、自分がその分野を本当に理解していないといけないと思っています。財務の話も、経営戦略の話も、為替の話も、AIやDXの話まですべてがつながっている。表面的な知識だけでは、深いところで役に立てない。

海外ビジネスは常に変化しています。地政学リスク、テクノロジーの進化、各国の規制変更──昨日まで常識だったことが、今日には通用しなくなることもある。だから私自身が常に学び続けることで、お客様に対して常に最新・最善のアドバイスができると信じています。

中小企業の経営者の方も、海外展開を決断したなら、ぜひ「勉強を続ける」姿勢を持ってほしいと思います。現地の文化、言語、商習慣──すべてを完璧に理解する必要はありませんが、「知ろうとする姿勢」が、現地パートナーとの信頼構築においても大きな差を生みます。

海外ビジネスは確かに難しい。でも、適切なパートナーを持ち、正しい順序で準備を進めれば、必ず道は開けます。悩んでいるなら、まずは一度、私たちに話しかけてみてください。


中小企業が海外展開を成功させるためのチェックリスト

辰己さんのインタビューから、海外展開を成功させるためのポイントをまとめます。

進出前に確認すること

  • 自社商品・サービスの「誰に・どこで・なぜ売れるか」を仮説として言語化できているか
  • 進出候補国の商習慣・規制・競合状況を調査したか
  • 為替リスクへの対応策(デリバティブ等)を検討したか
  • 信頼できる現地パートナー(銀行・商社・仲介業者)とのネットワークがあるか

進出後に意識すること

  • 現地パートナーとの定期的なコミュニケーションを維持しているか
  • 小さなトラブルを早期に把握・対処できる体制があるか
  • スピードではなく、信頼構築を優先できているか
  • 撤退基準と判断タイミングを事前に設定しているか

海外展開は「一発勝負」ではなく、継続的な取り組みです。焦らず、しかし着実に、 そして専門家の力を借りながら進めていくことが、成功への最短ルートと言えるでしょう。


取材協力:辰己 誠 氏(中国銀行 国際部長) 2026年4月取材

この記事をシェアする

Leap global business

Leapでグローバルに
飛躍しましょう。

海外売上を伸ばすためのオールインワンツール

多言語HP作成、越境ECの開設・運用、多言語コンテンツ制作、海外向けSNS運用、そして現地の代理店マッチングまで。
Leapなら、複雑な海外展開のプロセスを一元管理し、効率的に海外売上を拡大させることができます。

リンクをコピーしました