海外マーケティング

フランス発デジタルインクルージョンSaaSが日本市場に挑む──FACIL'iti長井早和子様が語る、Webの「見えない壁」を壊すビジネスの最前線

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Leap 編集部
Leap 編集部
海外ビジネスのエキスパートチーム
フランス発デジタルインクルージョンSaaSが日本市場に挑む──FACIL'iti長井早和子様が語る、Webの「見えない壁」を壊すビジネスの最前線

インタビューした方のご紹介

長井早和子様 ファシリティジャポン株式会社 Country Manager

フランスのインパクトスタートアップであるFACIL'iti SAS の日本法人に参画後、現在は神奈川を拠点に日本市場全体の事業開発・営業・パートナー開拓を統括。フランス発のデジタルインクルージョンSaaSを日本という独特な市場に根付かせるべく、官公庁から大手企業まで幅広い導入実績を積み上げてきた。海外スタートアップを日本でスケールさせるリアルな苦労と手応えを持つ実践者。

FACIL'iti SASとはどのような会社か

FACIL'iti SASは、2018年にフランスで創業されたスタートアップで、WebサイトがよりインクルーシブになるようサポートするSaaSを提供している。一言で表すなら、「Webサイトのユーザーが自分に最適な表示を選ぶことができる、Webサイト向けのSaaS型ソリューション」だ。

企業が自社のWebサイトにFACIL'itiのスクリプトを導入すると、サイトを訪れたユーザーは自分の見やすさ・使いやすさに合わせてUI(ユーザーインターフェース)を個別にカスタマイズできるようになる。文字サイズ、色、コントラスト、行間、フォント、カーソルサイズなど、自分自身で表示を調整できる仕組みだ。

設定はブラウザのクッキー情報として保存されるため、クッキーが削除されない限り、次回以降も自動で反映される。ユーザーが一度設定しておけば、以降はそのサイトを訪れるたびに自分仕様の表示になるという体験設計になっている。

日本法人は神奈川に拠点を置き、長井様がCountry Managerとして事業全体を統括している。フランス本社の100%子会社として、製品・サポート・品質管理は本社と連携しながら、営業・パートナー開拓・カスタマーサクセスは日本チームが担う体制だ。

サービスの核心──「運営者視点」から「ユーザー視点」へ

Webサイトの使いやすさというテーマを聞くと、多くの担当者は「JIS対応」「法律対応」や「ガイドライン準拠」を連想するかもしれない。しかしFACIL'itiが提唱するのは、それだけには止まらない、違った角度からの思想だ。

従来のWebサイトの使いやすさ改善は、サイト運営者が基準やガイドラインに合わせてサイトを改修するアプローチが中心だった。つまり、「提供側が一つの基準に合わせてWebサイトを整える」という発想である。FACIL'itiもまた、導入先のWebサイトごとに構造やデザインを確認し、そのWebサイトに合わせた調整と実装を行う。ただし、その目的は、Webサイトを一つの正解に固定するのではなく、訪問ユーザーが自分に合わせた表示や操作性を選べる環境を提供することだ。

この思想の違いは、ビジネス上の意味でも非常に大きい。サイトを全面改修するアクセシビリティ対応はコストと時間がかかる。また、どれだけ丁寧に「基準」通りに設計しても、それだけで全てのユーザーにとって使いやすいサイトになるわけではない。「基準」が想定するユーザーには届くが、見え方や読み方、操作性は一人一人異なるため、その枠に収まらない多くのユーザーには不便が残る可能性がどうしてもある。これに対しFACIL'itiは、一つの正解に固定するのではなく、低視力のユーザー、色覚に特性を持つユーザー、高齢で文字が見えにくいユーザーにも、それぞれの状況に応じた最適化を個別に届けることができる。

重要なデータがある。FACIL'itiが持つ実データによれば、約65%のユーザーが何らかの形でWebサイトの見づらさ・使いづらさを感じているという。これは障害者や高齢者に限った話ではない。一時的なケガで片手が使えない人、強い日光の下でスマートフォンを見ている人、偏頭痛の最中にスクリーンを見ている人など、「不便を感じる瞬間」はあらゆるユーザーに存在する。

つまり、インクルーシブなWeb体験は「一部の人への配慮」ではなく、「多数派の体験を改善する施策」として捉え直すべきものだ──これがFACIL'itiの根幹にある問題意識である。

競合との違い──カスタマイズ品質と思想の差

市場には類似するいわゆる「アクセシビリティツール」も存在する。では、FACIL'itiが選ばれる理由はどこにあるのか。

最大の差別化ポイントは、導入先のWebサイトごとに個別に調整を行い、表示変更後の品質を担保している点にある。競合製品の多くは、用意されている機能を一律に提供する仕組みが中心で、サイトの構造やデザインによっては表示崩れや見づらさが生じる場合がある。一方、FACIL'itiは導入先のWebサイト毎に構造やデザインを確認し、個別に最適化を行う。これにより、表示変更後も表示の崩れや見づらさが起こらないよう、自然で快適な閲覧体験として成立するよう品質を担保している。

また、この品質へのこだわりや、導入後継続的なアップデート、本社エンジニアチームとの連携による品質保証が、信頼性を重視する大手企業や官公庁のWebサイトへの導入につながっている。

フランス発のソリューションであるFACIL'itiには、欧州で培われてきたデジタルインクルージョンの思想と知見が反映されている。日本市場に導入する際も、その考え方を土台にしながら、日本の企業や自治体のサイトに合わせた展開を行っている。

日本市場が抱えるデジタルインクルージョンの課題

日本では2024年の障害者差別解消法の改正により、民間企業にも合理的配慮の提供義務が課された。Webサイトについても、JIS X 8341-3:2016などを踏まえた対応が求められる場面が増えており、特に公共性の高い企業や団体では、デジタル上の利用しやすさをどう高めるかが重要なテーマになっている。

しかし、現場では「必要性は理解しているが、何から始めればよいかわからない」という戸惑いも少なくない。Webサイト全体の見直しとなると、開発工数、予算、スケジュール、関係部署との調整が必要になり、重要性は認識されていても、優先順位が後回しになりやすい。

そこでFACIL'itiの強みとなるのが、既存サイトを活かしながら導入できる点だ。導入にあたっては、サイトごとの構造やデザインを確認し、必要な調整・作り込みを行うため、単にタグを追加して終わるものではない。その分、ユーザーが自分に合った表示や操作性を選んだ際にも、サイトの見た目や情報設計を大きく損なわず、自然な閲覧体験として成立させることができる。

大規模なサイト改修に比べて導入のハードルを抑えながらも、品質を担保した形でデジタルインクルージョンに取り組める。FACIL'itiは、「義務だから仕方なく」ではなく、既存サイトを活かしながら、多様なユーザーに向けたWeb体験を前進させる施策として提案できる点に、日本市場での訴求力がある。

導入効果──インクルーシブな姿勢を社会に示す

FACIL'itiの導入は、単にWebサイトに機能を追加するだけではない。企業や自治体が、多様なユーザーに向き合う姿勢を可視化する取り組みでもある。

公的機関にとって、Webサイトは市民に向けた重要な情報接点である。高齢者、見え方や読み方に不便を感じる人、手の動きに不安がある人など、さまざまな市民が必要な情報にたどり着ける環境を整えることは、公共性の高い情報発信において重要な意味を持つ。

民間企業にとっても、FACIL'itiの導入はブランド価値につながる。D&I、ESG、CSRといった取り組みを掲げるだけでなく、実際の顧客接点であるWebサイト上に反映できるからだ。自社サイト、IRサイト、採用サイトなどで、インクルーシブな企業姿勢を具体的に示せることは、投資家、求職者、顧客に対するメッセージにもなる。

導入企業は、自社サイトにFACIL'itiのバッジを表示できる。これは、多様なユーザーに配慮したWeb体験を提供していることを示すブランドシグナルとなる。また、プレスリリース、社内報、CSR報告書、ESGレポートなどで取り組みを発信することで、言葉だけではない具体的なアクションとして社内外に伝えることができる。

FACIL'itiは「守りのコスト」ではなく、企業や自治体の姿勢を可視化し、ブランド価値を高めるための投資として位置づけられる。多様なユーザーに向けたWeb体験の改善は、顧客満足の向上だけでなく、企業の信頼形成にもつながる。

アクセシビリティはPR・ブランディングの武器になる

FACIL'itiを導入した企業が得るものは、Webサイト上の機能的な価値だけではない。導入した事実そのものが、企業の姿勢を伝える対外コミュニケーションの素材になる。

導入企業は自社サイトにFACIL'itiのバッジを表示できる。これは「このサイトは、あらゆるユーザーのことを考えて設計されています」というメッセージを可視化するものだ。ユーザーに対して配慮の姿勢を示す、さりげないが確実なブランドシグナルになる。

さらに、プレスリリースや社内報、CSR報告書、ESGレポートでの活用事例も増えている。特にD&Iや社会貢献をブランドの柱に据えている企業にとって、Webサイト上でのインクルージョンに対する具体的な投資は、言葉ではなく行動でコミットメントを示す材料になる。

FACIL'itiの導入は「守りのコスト」ではなく、ブランド価値を高めるための投資として位置づけられる。多様なユーザーに向けたWeb体験の改善は、顧客満足の向上だけでなく、企業の信頼形成にもつながる。

今後の展望──観光・自治体領域を中心に

長井様が今後の展開先として可能性を感じているのが、自治体や観光関連のWebサイトなど、公共性の高い情報発信の領域だ。

観光分野では、インバウンド需要の回復・拡大を背景に、外国人観光客、高齢の旅行者、見え方や操作に不便を感じる人など、多様なユーザーに向けた情報提供の重要性が高まっている。観光地のWebサイト、宿泊施設の予約サイト、地域の観光ポータルサイトなどは、旅行前の情報収集から予約・申し込みまでを支える重要な接点であり、誰もが使いやすい環境を整えることは、観光体験全体の質にも関わる。

自治体領域でも、行政サービスのデジタル化が進むなかで、住民向けオンラインサービスの役割は年々大きくなっている。情報公開、各種手続き、地域ポータルなど、住民がWebサイトを通じて行政情報に触れる機会は増えている。高齢化が進む地域社会において、誰もが必要な情報にたどり着き、サービスを利用できる環境を整えることは、自治体のデジタル施策における重要なテーマである。

FACIL'itiは、こうした公共性の高い領域において、既存サイトを活かしながら、多様なユーザーに合わせた閲覧体験を提供できる点に強みがある。フランス発のソリューションとして欧州で培われた知見を背景にしつつ、日本市場では国内企業や自治体のニーズを丁寧に理解し、信頼関係を築いていくことが欠かせない。今後も導入実績を着実に積み重ねながら、自治体や観光関連サイトを含む幅広い領域で、パートナーシップの構築と導入機会の拡大を進めていく。

まとめ──Webサイトを持つすべての企業担当者へ

自社のWebサイトが、すべてのユーザーにとって使いやすいかどうかを、改めて考えてほしい。

約65%のユーザーが何らかの見づらさ・使いづらさを感じているという事実は、裏を返せば「多くの潜在顧客が不便を感じたまま離脱している可能性がある」ということだ。問い合わせボタンまでたどり着けなかった人、フォームが使いにくくて途中で離脱した人、情報が見づらくて別のサイトに移ってしまった人──その数は、分析ツールのログには残らない。

FACIL'itiが提示するのは、福祉や義務対応の話ではない。ユーザー一人ひとりに合った閲覧体験を提供し、Webサイトをより多くの人に開かれた顧客接点へと変えていくための考え方である。

「ユーザーに合わせてサイトを変える」というシンプルな思想が、Web体験のあり方を根本から変えていく。合理的配慮だけではなく、ブランディング・ユーザー満足度の向上、インクルーシブな企業姿勢の可視化になるこの取り組みを、一つの投資として検討する価値は十分にある。

海外スタートアップのプロダクトを、日本市場の特性に合わせて丁寧に展開してきた長井様の言葉には、製品への確信と、日本のWebをより使いやすくしたいという思いが滲んでいた。

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