株式会社グローバルフィッシュで海外事業部の主任を務めるヤロザ・オレクシー氏。ウクライナの農業分野で営業事務や物流の経験を積んだ後、日本の水産卸売業界へと身を転じた同氏は、現在、日本品質の魚を東南アジアへ届ける輸出業務と、欧州やオセアニアからの輸入業務の両面で指揮を執っています。
伝統的な日本の水産卸売業が、いかにして海外市場と向き合い、商習慣や価値観のギャップを乗り越えているのか。中小企業が海外ビジネスを成功させるためのヒントを、ヤロザ氏の視点から紐解きます。
日本の「こだわり」を東南アジアへ。鮮度を武器にした輸出戦略
株式会社グローバルフィッシュは、もともと帝国ホテルやリッツ・カールトンといった国内の高級ホテル、大手レストラン、在日大使館を顧客に持つ、高品質な水産物の卸売を強みとしてきました。その確かな「目利き」と「鮮度管理」を武器に、現在はシンガポールやマレーシアを中心とした東南アジア市場への輸出を拡大しています。
タイやカンボジアでの実績も積み上げる中で見えてきたのは、現地のニーズに合わせた柔軟な展開です。単に日本の魚を送るだけでなく、「日本の鮮度」という付加価値がどの市場で最も高く評価されるかを見極めることが、海外事業部主任としてのヤロザ氏の役割です。
多角化する調達ルート。ノルウェーからアイルランドまで広がる輸入網
同社の事業は輸出に留まりません。日本国内の市場ニーズに応えるため、世界各国から高品質な水産物を調達する輸入業務も重要な柱となっています。
ノルウェーやニュージーランド産のサーモンに加え、近年ではスコットランド産のスモークサーモンやアイルランド産の商材など、調達ルートを欧州全域にまで広げています。「日本にないもの」を仕入れるだけでなく、「日本市場が求めるクオリティ」に合致する生産者を世界中から探し出すグローバルなネットワーク構築が、卸売業としての競争力を支えています。
海外ビジネス最大の壁。現場で直面する「価値観のすり合わせ」
海外展開を志す経営者や担当者が最も苦労するポイントとして、ヤロザ氏は「日本と現地の価値観の違い」を挙げます。
1. 経営者と現場の板挟みを解消する調整力 ヤロザ氏の重要な役割の一つに、現地の取引先社長が提示する条件と、自社の現場メンバーが守りたい基準の間に入り、落とし所を見つけることがあります。現地のスピード感や利益重視の姿勢に対し、日本の現場が持つ職人気質なこだわりをどう翻訳し、双方が納得できるビジネスモデルに落とし込むか。この「通訳者」としての立ち回りが、プロジェクトの成否を分けます。
2. 「刺身品質」の過剰と不足 特に水産業において顕著なのが、品質に対する基準の差です。日本側は「刺身で提供できる徹底的な鮮度」を追求しますが、現地の顧客によっては、そこまでの品質(とそれに伴うコスト)を求めていないケースもあります。日本の基準を一方的に押し付けるのではなく、現地のマーケットが求める適正な品質と価格のバランスを見極める冷静な視点が欠かせません。
地政学リスクと為替変動。中小企業が備えるべき外部要因
昨今の海外ビジネスにおいて、自助努力だけではコントロールできない外部要因への対応も不可欠です。
グローバルフィッシュも例外ではなく、中東の軍事情勢悪化に伴う物流コストの上昇や、急激な円安の影響を大きく受けました。輸入コストの高騰により、時には苦渋の決断として輸入を断念する商材も出たといいます。
こうしたリスクに対し、中小企業が取るべき策は、特定の国や商材に依存しすぎない「リスクの分散」と、状況の変化に応じて迅速に事業計画を修正できる機動力です。ヤロザ氏のように、現場の最前線で国際情勢の肌感覚を持ちながら、経営判断に直結する情報を収集し続ける体制が重要となります。
まとめ:海外進出を成功させる「ブリッジ」の存在
株式会社グローバルフィッシュの事例から学べるのは、海外ビジネスとは単なる「モノの売り買い」ではなく、「異なる文化や価値観をどう繋ぐか」というマネジメントそのものであるということです。
ヤロザ氏のような、双方の背景を理解し、現場レベルでの微調整を厭わないリーダーの存在こそが、中小企業の海外進出を加速させるエンジンとなります。自社の強みである「こだわり」を大切にしながらも、現地のリアリティに耳を傾ける。その柔軟な姿勢こそが、グローバル市場への扉を開く鍵となるでしょう。
海外進出を検討される際、自社に「価値観の橋渡し」ができる人材がいるか、あるいはその役割を誰が担うのか。一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。