海外進出マニュアル

「品質より先に、価値を伝えよ」── 海外営業16年のプロが明かす、中小企業が海外展開で失敗する本当の理由

読了時間: 約 10.502分

Leap 編集部
Leap 編集部
海外ビジネスのエキスパートチーム
「品質より先に、価値を伝えよ」── 海外営業16年のプロが明かす、中小企業が海外展開で失敗する本当の理由

「品質より先に、価値を伝えよ」── 海外営業16年のプロが明かす、中小企業が海外展開で失敗する本当の理由。複数業界でグローバル展開を牽引してきたエキスパートが、新市場で躓かないための要諦を語るインタビュー。


ゴメス ロジャー様 SaaS・建設・FMCGなど複数業界で20年以上のビジネス経験を持つ。そのうち約16年をグローバル展開に従事。アジア(香港・中国・シンガポール・マレーシア・韓国・タイ・ベトナム)および北米(アメリカ・メキシコ・カナダ)での展開を幅広く経験。現在はHRテック領域のスタートアップ Kapture にて海外展開を推進。


海外展開で最初に躓くのは「誰がお客様か」がわからないこと

──海外営業16年のキャリアの中で、最初に直面した壁はどこにありましたか?

一番難しいのは「誰が本当のお客様なのか」を見極めることです。これは聞けば当たり前のように聞こえますが、実際に新しい市場に入ると、思った以上に難しい。

私は最初、スーパーマーケットに並ぶオリジナルブランド商品(FMCG)の海外営業を担当していました。次は神戸の建設関連企業のベトナム進出支援、そして今はエンタープライズ向けのHRテックです。業界は全く違いますが、どの現場でも「誰にどんな価値を届けるか」を最初に定義できないと、その後のすべてがズレていきます。

中小企業が新しい市場に入るとき、「自社製品を欲しがってくれる顧客は誰か」を最初の3〜6ヶ月でどれだけ精度よく見つけられるか──そこが、その後の成否を大きく左右します。

──具体的にはどのように顧客を見つけていったのでしょうか?

ベトナム展開の支援では、「1市場・1セグメント」に絞ることから始めました。最初から全方位を狙おうとすると、どこにも刺さらない。まず一番可能性のある顧客像を仮定して、A/Bテストのように検証を繰り返す。その仮説が正しければ次に進む、間違っていれば修正する。そのサイクルを素早く回すことが最重要でした。


日本企業の最大の弱点は「品質への過信」

──日本企業が海外展開で陥りがちなパターンはありますか?

はっきり言います。日本企業は「品質を完璧に仕上げてから出す」という発想が染み付きすぎています。製品の完成度を高めることに時間をかける一方で、その間に市場検証のスピードで負けてしまう。

海外市場での「品質」は、今や参入の前提条件です。品質が高いのは当然。問題は、その先の「なぜ自社製品でなければならないか」を顧客に伝えられていないことです。

PMF(Product-Market Fit)を達成するために本当に必要なのは、完璧な品質ではなく、明確なバリュープロポジション(価値提案)です。「どれほど良い製品か」ではなく、「顧客の何の課題を、どう解決するのか」を分かりやすく伝えられるかどうか。日本企業が海外で苦戦する最大の原因は、そこにあります。

──バリュープロポジションを正しく設計するためのポイントは何でしょうか?

「顧客がその製品を使って満足しているか」ではなく、「その製品がなかったら困るか」を判断基準にすることです。満足度が高くても、代替品があれば乗り換えられる。一方、「これがないと業務が回らない」という状態まで持っていければ、強い顧客基盤になります。

そのためには、製品が解決する課題を顧客の言葉で語れることが大切です。日本企業はどうしても「機能」や「仕様」で説明しがちですが、海外では「あなたのこの課題が、こう変わる」というビフォーアフターの見せ方が刺さります。


意思決定の遅さが, 海外展開の致命傷になる

──日本企業の組織面での課題はどうでしょうか?

意思決定のスピードです。これは本当に深刻です。

海外のビジネス環境は変化が速い。パートナーとの交渉、顧客の要望への対応、競合の動き──すべてが日本国内とは比較にならないスピードで動いています。そこに「社内で検討します」「上に確認します」を繰り返していると、あっという間に機会を失います。

GTM(Go-to-Market)戦略を立てることは大事です。でも戦略はあくまでも地図であって、実際に車を走らせなければ目的地には着けない。各タスクを明確なスケジュールに落とし込んで、実行し続けること。戦略と実行の両輪が揃って初めて、海外展開は前に進みます。

──意思決定を速くするために、組織はどう変わるべきでしょうか?

まず、海外展開の意思決定には「時間軸」を設定することです。「この判断は2週間以内に結論を出す」と最初から決めておく。そうしないと、社内の合意形成に3ヶ月かかるなんてことが平気で起きます。

もう一つは、海外担当者に一定の権限を委譲することです。現場で動いている人間が、小さな判断のたびに本社の承認を待っていたら機動力がなくなる。信頼して任せる仕組みを作ることが、組織としての変化として必要です。


業界によって異なる「正しい攻め方」

──扱う商品・サービスによって、海外展開のアプローチは変わりますか?

大きく変わります。私が経験したFMCG・建設・ITの3業界でも、それぞれ全く違いました。

ITは比較的攻めやすい。なぜなら、まず小さくテストできるからです。SaaSであれば無料トライアルや小規模なパイロット導入から始めて、顧客の反応を見ながら改良できる。物理的な在庫も流通コストも不要なので、スピーディに仮説検証ができます。

一方、FMCGや建設のような「フィジカルプロダクト」は、ローカルの流通・サポート体制が必要になるため、信頼できる現地パートナーの存在が不可欠です。タイに展開したいならタイのパートナーが必要、マレーシアならマレーシアのパートナーが要る。

──現地パートナーを選ぶ際の注意点はありますか?

「ちゃんと動かないパートナーが非常に多い」というのが正直な実感です。名前が通っていても、いざ動き出すとリソースを割いてくれなかったり、情報共有が途絶えたりする。

だからこそ、最初から長期契約を結んではいけません。まず3ヶ月程度の短期契約からスタートして、「実際に動いてくれるか」「成果を出してくれるか」を見極める。そのパフォーマンスが基準を超えたら、6ヶ月・1年と契約を延ばす。この成果ベースの段階的な契約が、リスクを抑えながら良いパートナーを見つける現実的な方法です。


グローバル市場でPMFを達成するまでの苦労

──グローバル市場でPMFを達成するまでに、特に苦労された点はどこでしたか?

一番見落とされているのに、あまり語られない課題があります。それは「何をもって前に進むと判断するか」が曖昧なまま進んでしまうことです。

会議では「これをやろう、あれもやろう」と議論は活発に進みますが、「いつまでに」「どの状態になれば次に進むのか」といった基準が明確に合意されないまま終わるケースが非常に多いと感じています。特にリスク回避の意識が強い組織ほど、この傾向が顕著です。

慎重さ自体は重要ですが、それが意思決定の遅れにつながった瞬間に、市場での機会は静かに失われていきます。

PMFを達成するには、仮説検証のサイクルを速く回すことが不可欠です。そのためには、「このマイルストーンまでに、この状態に到達すれば次に進む」という共通認識をチーム全体で持つことが重要だと考えています。


日本と海外の文化的な違い

──日本と海外の文化的な違いで、印象に残っていることはありますか?

日本と海外の違いとして強く感じているのは、「信頼の築き方」と「意思決定の進め方」です。

日本では、関係性や信頼を丁寧に積み上げていくプロセスが重視され、意思決定も組織全体での合意形成を大切にする傾向があります。一方で、海外ではスピードを重視し、一定のリスクを取りながら前に進むケースが多いと感じます。

私自身、日本の経営者と近い距離で仕事をする中で、信頼は言葉だけではなく、結果や継続的なコミットメントによって築かれるものだと実感してきました。言葉の壁があっても、誠実さと成果は必ず伝わると感じています。

一方で、日本企業が海外人材を受け入れ、長期的な貢献を期待する仕組みは非常に意義のあるものだと感じていますが、その期待との間にギャップが生まれるケースもあると感じています。

外国人として日本で働く立場としては、その信頼の重さを理解し、それに応えていく姿勢が重要であり、その意識を持った人材こそが、日本企業のグローバル展開において大きな力になると考えています。


海外展開の初期フェーズは「売上」より「学習」

──海外展開を成功させるための、全体的なマインドセットについて聞かせてください。

成功している企業に共通しているのは、最初の海外展開を「売上を立てるフェーズ」ではなく「市場を学ぶフェーズ」として捉えていることです。

最初から売上目標を高く設定すると、焦りが生まれる。焦ると、顧客の声を聞く前に「売ろう」として、結果的にズレたアプローチで時間とお金を無駄にします。

逆に「この半年は、市場と顧客を理解するための投資期間だ」と割り切れる企業は、そこで得た学習をもとに正しいGTM戦略を再構築できる。その後のスケールが全然違います。

──最後に、これから海外展開を考えている中小企業の経営者・担当者にメッセージをお願いします。

日本企業の製品は本当に質が高い。それは海外でも通用するポテンシャルを十分に持っています。でも、その価値を海外の顧客に伝えるための「言語」を身につけていないケースがあまりにも多い。

品質は大前提。その上で、「なぜあなたの会社の製品でなければならないのか」を、顧客が理解できる言葉で伝えられるか。それが海外展開の勝敗を分けます。

まず小さく、素早く動くこと。仮説を立て、テストし、学び、修正する。その反復の中で、市場との対話を続けてください。日本の中小企業には、そのスピードさえ身につければ、世界で戦えるポテンシャルがあると心から思っています。


まとめ:海外展開で押さえるべき5つのポイント

ゴメス様のインタビューから見えてきた、海外展開を成功させるための核心を整理します。

  1. 「誰がお客様か」を最初に見極める 新しい市場では、まず1セグメントに絞り込んで顧客検証を行う。全方位を狙う前に、一点突破で仮説を検証することが最重要。

  2. バリュープロポジションを磨く 品質の高さは「当たり前」。「この製品がなければ困る」と顧客に感じてもらえる価値提案を、顧客の言葉で設計することがPMFへの近道。

  3. 意思決定に時間軸を設定する 海外では意思決定スピードそのものが競争力。「検討します」を繰り返す組織は機会を失い続ける。判断のデッドラインを決め、実行と戦略の両輪を回すこと。

  4. 現地パートナーは成果ベースで評価する フィジカル商材はパートナーなしで展開できないが、最初から長期契約を結ばない。3ヶ月の短期契約でパフォーマンスを確認してから、段階的に関係を深める。

  5. 最初の海外展開は「学習フェーズ」として捉える 売上目標より市場理解を優先する姿勢が、その後のスケールアップの基盤をつくる。焦らず、素早く、仮説検証を繰り返すことが王道。

この記事をシェアする

Leap global business

Leapでグローバルに
飛躍しましょう。

海外売上を伸ばすためのオールインワンツール

多言語HP作成、越境ECの開設・運用、多言語コンテンツ制作、海外向けSNS運用、そして現地の代理店マッチングまで。
Leapなら、複雑な海外展開のプロセスを一元管理し、効率的に海外売上を拡大させることができます。

リンクをコピーしました