東南アジア・中東を中心に、工芸品・美容・エアコンなど多様な業界の海外進出をサポートするコーディネーターの髙松直弥氏。リスクを最小限に抑えて成果を出す「小さく始める」海外展開の極意と、中小企業が持つべき5つの心得を語る。
髙松 直弥(Naoya Takamatsu)さん 日本企業の海外展開を支援するコーディネーター。東南アジア・中東を中心に、工芸品・美容・エステ・エアコン・教育など、有形・無形を問わず多様な業界の海外進出をサポート。販売店・商社の開拓(セールス)から、SNS・プロモーション・動画制作の支援まで、ワンストップでプロデュース。案件によってはアフリカ(ナイジェリア)とフランスをつなぐなど、日本が絡まないクロスボーダー案件も手がける。
「まず売れる市場を見つけること」── 海外展開の出発点
──髙松さんが手がける海外展開支援とは、具体的にどんな仕事なのでしょうか?
一口に「海外展開支援」といっても、依頼内容はさまざまです。「日本からヨーロッパに商品を持っていきたい」という相談もあれば、「東南アジアで現地の販売店を見つけてほしい」という依頼もある。セールス──つまり現地の販売店や商社を探す仕事が軸ですが、SNS運用やプロモーション動画の制作まで手伝うこともあります。
国でいうと、東南アジアと中東の案件が多いですね。スリランカや東南アジア諸国はここ数年で特に案件が増えています。面白いのは、ナイジェリアとフランスをつなぐ案件のように、「日本」が直接絡まないクロスボーダーのビジネスも入ってくること。私が「海外」と「海外」の間をつなぐプロデューサー的な役割を果たすこともあります。
業界は本当に幅広くて、最近は日本の工芸品の相談が増えています。あとはエステや美容系、エアコンメーカーの海外ホテルへの導入営業、整備士さんの海外展開支援、教育系のサービスまで。有形の製品から無形のサービスまで、ほぼ何でもやっている感じです(笑)。
「すぐに卸せる業界」と「慎重に動くべき業界」の違い
──業界によって、海外進出の難易度は大きく違いますか?
かなり違います。一番動きやすいのは美容・エステ関連です。日本の美容技術やコスメへの需要は東南アジアでも中東でも非常に高く、現地の卸先を提案しやすい。「日本製」というブランド力が最初から武器になる業界です。問い合わせを受けてから、比較的早いスパンで「この商社に声をかけてみましょう」という提案まで進めることができます。
一方で、工芸品は最近相談が増えているものの、「誰に、いくらで、どのチャネルで売るか」の設計が難しい。工芸品は価格帯が高いものも多く、エンドユーザーの購買行動を丁寧にリサーチする必要があります。現地バイヤーの感覚と、実際に買うお客さんの感覚がズレていることもあるので、そこを埋めていく作業が重要です。
エアコンのような設備系は、現地のホテルや商業施設に直接営業するというBtoBの動きになります。導入後のメンテナンス体制や部品供給の問題も絡むので、現地パートナーとの連携が特に重要になってくる業界です。
「toBの価格」だけを信じてはいけない── エンドユーザー調査の重要性
──海外展開でよくある失敗や、気をつけるべき落とし穴はありますか?
よくあるのが、現地商社の言葉だけを信じて進んでしまうことです。商社はあくまでも卸売の立場ですから、「この価格なら売れる」という判断は、商社の利益が確保できる価格帯での話であることが多い。でも、実際にエンドユーザーがその価格で買うかどうかはまた別の話です。
私が必ず心がけているのは、toBの商社だけでなく、エンドユーザーへの調査も同時並行で行うことです。現地の消費者に直接ヒアリングをしたり、SNS上のコメントを分析したりして、「実際にこの商品・価格はアリかどうか」を現地目線で確かめます。このプロセスを省略すると、商社との契約まで進んでから「思ったように売れない」というミスマッチが起きやすい。
エンドユーザーへの調査は、プロモーション戦略を立てる上でも非常に役立ちます。どんなSNSチャネルが効果的か、どんなビジュアルが刺さるか、現地の生活者の声から見えてくることはたくさんあります。
「小さく始める」が最強の戦略── 規制と輸送の現実
──実際に海外に商品を出していくうえで、想定外の壁にぶつかることはありますか?
規制の壁は本当に大きいです。化粧品は特に厳しい。成分表の開示要件が国によって違うし、特定の成分が現地の法規制に引っかかることもある。承認手続きに時間がかかりすぎて、ビジネスの機会を逃してしまうケースも少なくないです。
成分でNGになる場合もありました。日本では普通に使われている成分でも、その国の基準ではNGになることがある。事前調査が甘いと、商品の輸出自体ができないという事態になってしまいます。
だからこそ、最初から大量に輸出しようとするのではなく、「まず小さく始める」というアプローチが現実的です。個人輸送のような形で少量から動かしながら、現地の反応を確かめていく。規制の複雑さや消費者の反応を小さなリスクで検証できるので、結果的に失敗が少なくなります。
もう一つの壁が輸送です。食品系や一部の美容品は賞味期限や品質保持の問題がある。船便は安いけれど時間がかかる。航空便は速いけれどコストが高い。冷凍・冷蔵が必要な商品であれば、さらに選択肢が絞られる。商品の特性に合わせた輸送ルートを選ばないと、せっかくの商品が現地に届いた時点で価値を失っているということにもなりかねません。
現地ネットワークと専門家連携が、海外展開の「精度」を上げる
──一人で全部やるのは難しそうですが、どのように対応しているのでしょうか?
私は特定の分野の専門家というよりも、プロデューサーに近い立場です。法務、物流、規制対応、現地プロモーションなど、それぞれの領域で信頼できる専門家と連携して、案件全体をプロデュースしていくスタイルをとっています。
特に現地のネットワークは重要で、現地の人間に直接ヒアリングができる環境があるかどうかが、海外展開の精度を大きく左右します。私が「エンドユーザー調査」を重視するのも、この現地ネットワークがあってこそ。表面的な情報だけでなく、生活者のリアルな声を拾える仕組みを持っていることが、ミスマッチを防ぐうえで最大の武器になります。
また、一つの案件に必要な専門知識は多岐にわたるため、「すべてを自社でやろうとしない」という発想も大切です。得意な領域に集中して、足りないところは専門家に任せる。それが、限られたリソースで海外展開を進める中小企業にとって現実的なアプローチだと思っています。
SNS・動画・プロモーション── デジタル発信が現地での「信頼」をつくる
──プロモーション支援も手がけているとのことですが、海外向けのSNS・動画はどう考えればいいでしょうか?
海外展開において、デジタルでの発信力は「信頼の証明書」になります。現地のバイヤーや商社が日本企業に興味を持ったとき、まず確認するのがウェブサイトやSNSです。情報がなかったり、更新が止まっていたりすると、「本当に実力のある会社なのか」と疑念を持たれてしまう。
特に動画コンテンツは、商品の品質やブランドの世界観を直接伝えられるツールとして非常に有効です。工芸品であれば職人の技をリアルに映した動画、美容製品であれば使用前後の変化を見せるビフォーアフター動画など、「百聞は一見にしかず」で伝わるものがある。多言語対応の字幕をつけることで、現地ユーザーへのリーチも広がります。
SNSは国・地域によって主流のプラットフォームが違います。東南アジアではFacebookやInstagramが強い地域が多いですが、TikTokの影響力も無視できない。中東はInstagramやSnapchatが重要な役割を果たしています。「とりあえず日本と同じ発信をすればいい」という発想は通用しないので、現地のSNS文化に合わせたコンテンツ戦略が必要です。
中小企業が海外展開で成果を出すための5つの心得
──最後に、海外進出を考えている中小企業の経営者・担当者へのメッセージをお願いします。
まず「大きく始めよう」という気持ちを一旦手放してほしいですね(笑)。以下の5つのことを意識して、まず小さく動いてみることが成果への近道だと思っています。
- まず「小さく始める」を戦略にする 規制・輸送・価格・文化の壁は、動いてみて初めてわかることが多い。個人輸送レベルの少量から始めて、市場の反応を検証することが、結果的に最もリスクが低い方法です。
- toBの価格感だけを信じない 現地商社の卸売価格の意見は参考にしつつ、エンドユーザーへのヒアリングを必ず行う。「商社が言うから大丈夫」ではなく、「実際に買う人がどう感じているか」を自分の目で確かめることが大切です。
- 規制リサーチは「後回し」にしない 化粧品・食品・美容器具など、規制に敏感な商品カテゴリーは、進出国の法規制を最初に確認する。成分の問題、ラベル表示の問題、輸入許可の問題──これらは「入ってから考える」では遅すぎます。
- 輸送コストと品質保持を同時に考える 商品の賞味期限や品質特性に合わせて、船便か航空便か、冷蔵冷凍が必要かを早い段階で判断する。輸送コストが収益を圧迫するケースは非常に多いので、販売価格の設計と一緒に考えておく必要があります。
- デジタル発信に投資する ウェブサイト・SNS・動画は現地バイヤーへの「名刺」です。日本語だけの情報発信は機会損失につながります。英語・現地語での発信を整えておくことで、商談のスタートラインに立てます。
海外展開には確かに難しさがありますが、「小さく動いて、学んで、広げる」というサイクルを回していけば、どんな業界・どんな規模の会社でも必ず道は開けます。一歩踏み出してみてください。